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敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊

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傍聴



「え?」

と言った。まさか、と思った。〈オキタ〉と名乗る〈ヤマト〉艦長とシュルツ司令との交信は〈デロイデル〉でも傍受しており、ゾールマンは機械が訳すオキタの言葉に耳を傾けていたのだが、しかし今、オキタが言った地球人の英語の『イエス』。

そんなもの、訳すまでもなく意味はわかる。わかるがしかし……。

そう言ったのか? 自分の耳が信じられない思いだった。見れば発令所内の誰もが驚きに目を瞠(みは)っている。

『どうした。何か不満なのか。わしはイエスと言ったのだぞ』

『え、ええと……』

オキタとシュルツの声が続く。皆が『まさか』という顔ながらにその会話に聞き耳を立てた。

その一方で、

「〈ギャワ〉が〈ヤマト〉を射程距離に捉えました」「こちらでも確認」

通信士とソナー士が報告する。ソナーの画面に六隻のうち一隻が、〈ヤマト〉を魚雷で射てる距離まで近づいたのが示されていた。

「さらに〈ゴルデノール〉……」

とソナー士。よし、とゾールマンは思った。この〈デロイデル〉も射程までもう一歩に迫っている。それで〈ヤマト〉を……。

『それより、シュルツ司令と言ったか。あなたはこちらにつく気はないか』

とオキタの声も続く。その映像も傍受され、別の画面に映っている。

『コスモクリーナーを本当に持っているのなら、地球はあなたを迎えるだろう。人々を救うためならこれまでの恨みなどと言っておれん』

『え、ええと……』

とシュルツの声。うろたえたその顔も画面に開かれた別のウインドウに映る。

オキタは続けて、『どうしたのだ。そういう話をしに来たのではないのかね。「和平について」などと言うが、あなたにガミラス全体を代表する資格があるのか。それは信じがたいのだが……』

『それは』

とシュルツ。そうだとゾールマンは思った。そうだ、そんな権限をこの男が持つわけがない。それは誰にもわかること……しかし国を裏切るのなら話は別だ。

「〈エグゼダー〉もまた射程に……」「〈ビューズドン〉も……」

士官達の報告が続く。そして五隻目の船〈バーズ〉もまた、〈ヤマト〉を射程距離に収めた。

残るはこの〈デロイデル〉だ。

雷撃士が言う。「射程まであと100……90……」

「よし」

と言った。それでいい。その数字がゼロになればそこで全艦魚雷発射。それで〈ヤマト〉はオダブツだ。

「80……70……」

シュルツ司令とオキタとの通話なんてどうでもいい。そうは思うが、まだその通話も、発令所内に響いている。

画面の中でオキタが言う。

『この交信は地球に届いているのだろう』

「60……50……」

『だからあなたが今ここで、イエスかノーで答えればいいのだ。部下を連れて投降するというなら悪いようにはしない……と言ってもわしは約束ができる立場にないが、地球では命の保証はするはずだ。放射能除去装置を本当に持っているのか、それすら関係がない』

「40……30……」

『あなた方が何者で、なぜやって来たかそれが知りたい。まずはそれをここで話す気があるかどうかだ。答えてもらおう。イエスか――』

「20……10……」

『ノーか』

「ゼロ!」と雷撃士が告げる。「全艦、射程に入りました!」

ゾールマンの見る画面にシュルツ司令とオキタの顔が映っている。『イエスかノーか』。司令の返事を聞いてみたい気も彼にはした。だが構うものかと思った。そんなものは聞かなくていい。

「発射だ!」叫んだ。「全艦、魚雷発射!」