敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊
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「波動砲……〈破壊兵器〉としてでなく、魚雷の回避手段として使ったというのか……」
シュルツは言った。そこで「司令!」と鋭い声を出す者がいた。
通信手だ。なんだ、と思って見やると恐怖の表情をしている。
そこで気づいた。聞かれた――すべて聞かれたのだ。マイクのスイッチは入ったままで、オキタと、そして全地球人に聞かせるつもりでベラベラと自分はしゃべり続けていた。
それが今もそのままなのだ。自分の言葉は地球の日本語に翻訳されて、同時に地球に流されている。ただちにこれを聞ける者がどれだけいるか知らないが、何十、何百万という単位……。
それだけの数に聞かれたのだ! そして見られた。魚雷発射を知った時点で、予め宇宙空間に放(はな)っておいた無人カメラが撮る映像を地球に送るようにしてやっていたのだ。レンズには次元フィルターを掛けていて、〈ヤマト〉に向かって進む魚雷の航跡までがハッキリ確認できるようにしてやっていた。
地球人どもに見せつけるため……〈ヤマト〉に魚雷が当たる瞬間を全地球人に見せつけるために。しかしそれが、代わりに〈ヤマト〉が難を逃れたようすが撮られ送られてしまっている。
このわたしの解説付きでだ! 何百万という地球人に見られ聞かれてしまったのだ。
それはもちろん保存され、すぐにあらゆる地球人の知るところになってしまう。この自分の失敗を……。
そう悟った。シュルツは手で合図を送り、通信手は急いですべてを切ったものの、もう遅い。地球では既に数百万人が歓声を上げていることだろう。
やられた――またしても〈ヤマト〉にやられた。いや、あいつだ。あいつにやられた。
オキタ――そう名乗った男。あいつにしてやられたのだ。
冥王星に続いてまた――やつは魚雷を躱す算段だけをしていたのではない。これだ。こいつも、やつの機略にこちらがかかってしまったのに違いない。
地球では、既に叫んでいるのだろう。オキタ! オキタ! またやってくれたのか! 我らは信じる。あなたなら、必ずどんな罠も切り抜け、ここに戻って来てくれる。我らはそれを信じて待つぞ!と。
そうだ。既に多くが叫び、すぐに誰もがそう叫ぶようになる。オキタはわたしが切った必殺のはずの札(ふだ)を、またも地球に希望を届ける手に変えてしまったのだ。
「くっ……」
シュルツは歯噛みした。と、そこで「司令!」と、また鋭い声がした。
今度は操舵手だ。続けて叫ぶ。「ここは危険です。ロケット弾は届きませんが……」
「そうだ!」とヴィリップス。ハッとした顔で、「そうです。爆雷や魚雷は届く! ここにいては殺られます!」
「うっ」
と言った。そうだった。〈水〉に深く潜ったためにあの銀色の戦闘機に殺られる心配はなくなっているが、しかし深く潜ったことで今度は〈ヤマト〉に爆雷や魚雷を喰らう心配が生まれてしまったのだ。オキタは、これも狙っていたのかもしれない。
「司令!」
と今度はソナー手が、切羽詰まった声で叫んだ。
「〈ヤマト〉が魚雷発射管の蓋を開く音を確認! 次元爆雷の射出口と思しきものを開く音も!」
「いかん!」叫んだ。「逃げろ! なんとかして逃げるんだ!」
作品名:敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊 作家名:島田信之