敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊
小物はいいから
〈ヤマト〉が魚雷と爆雷の発射口の蓋を開く。しかし、それが狙うのは、シュルツの潜宙艇ではなかった。
六匹の〈ワニ〉――敵ガミラス次元潜宙艦隊だ。一度躱したとは言ってもまたすぐ魚雷を射ってこられる敵なのだから、〈ヤマト〉としては先に片付けなければいけない。
まずは艦尾に六門ある魚雷発射口から六基の対潜宙艦用次元魚雷が発射され、同時にヘッジホッグ迫撃爆雷が両舷に並ぶ発射口から宇宙に放たれる。
これらは魚雷の航跡を元に、『〈ワニ〉がいる』と見当をつけたおよその位置に放っためくら射ちだった。魚雷はピンを打ちながら〈ワニ〉を求めて〈海面下〉を進み、爆雷は任意の位置で〈海面〉に落ちて定められた〈深度〉に達すると爆発するよう設定されている。
敵を殺すのが目的でない。ダイナマイトでサカナを獲る漁のようにダメージを与え、今はふたたび〈ヤマト〉に向かって魚雷を射てなくさせるための攻撃だ。
〈ヤマト〉は今、敵の位置を正確につかんでいるわけではなかった。〈ヤマト〉艦橋、通信士席で相原が叫ぶ。
「アルファー・ワン、ツー。小物はいい! 〈ワニ〉を見つけにまわってくれ!」
『了解!』
と古代と山本。二機の〈ゼロ〉は機をひるがえして、敵の潜宙艦隊が〈ヤマト〉めがけて魚雷を射った辺りの宙域に向かった。
〈ゼロ〉には〈水中〉深くにいる潜宙艦艇を直接攻撃する能力はないが、しかし各種の探知装置で水中の敵を見つけて〈ヤマト〉に居場所を教えられる。漁業組合の飛行機が魚群を見つけて漁船に情報を伝えるように。鉱脈探しのパイロットが磁気計を積んだ飛行機で山の上を飛ぶように。
〈ヤマト〉はまだ、宇宙をバックで進んでいるかのように見える。そこで島が操縦桿を捻(ひね)りながらにペダルを踏んだ。
両舷のスラスターが炎を噴く。艦首と艦尾で左右逆にだ。〈ヤマト〉は船体を軋ませながらスピンした。
180度回ったところで、スラスターを逆向きに噴かせて回転を止める。新体操の選手がリボンをクルクル回したように煙が〈ヤマト〉を取り巻いた。
そうして〈ヤマト〉は元来た方へ、艦首を前に進み出した。今や〈ヤマト〉は前部の六つの魚雷発射口を六匹の〈ワニ〉がいる方角へ向けている。そこでそれまで止めていたメインとサブのエンジンを咆哮(ほうこう)させた。
二機の〈ゼロ〉が突っ込んでいった空間に後を追って進んでいく。自(みずか)らもその球形艦首からアクティブ・ピンを放ちながら、速力で潜宙艦に遙かに勝る船体を加速させていった。
作品名:敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊 作家名:島田信之