敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊
爆雷攻撃
「来ました! 爆雷です!」
〈デロイデル〉の発令所内でソナー士が叫ぶ。彼が見る画面の中で無数の輪が広がっていた。
水面に石を落としたときに出来る波紋のようなもの。それがいくつも――それ自体が輪を為して、ゾールマン戦隊の六隻の船を囲んでいる。魚群に向かって打たれた投げ網のように。
〈ヤマト〉が放った次元爆雷だ。何十基というそれらが今〈海面〉に落ち、〈水中〉に沈み始めたのだ。宇宙という〈黒いゴムシート〉の下の次元の〈水〉の中に。
そこに棲む〈ワニ〉を退治するための爆雷。それらがまたキンキンとアクティブ・ソナーのピンを打つ。
一定の次元深度に達するか、もしくはソナーが近くの敵を探知したとき起爆して、連鎖的に他の爆雷すべてがドカドカドカーンと行く仕掛けなのは確かめるまでもない。それが宇宙の爆雷攻撃なのだから。
その投げ網が打たれたのだ。キン、キン、キン……とピンガーの音が高まっていく。
そして、来た。爆雷のひとつが炸裂。続いてズガガガガンとばかりに次から次に爆発していく。
〈デロイデル〉はガクガクと揺れた。船のまわりで〈水〉がうねって外殻を撫で、内殻との間にある骨を軋ませて壁を捩(よじ)らせ、乗員が立つ床板を波打たせる。潜宙艦独特の不気味な音が内部に反響した。
〈デロイデル〉だけではない。ゾールマン戦隊六隻のすべての船の全乗員が、同じ響きに腸(はらわた)まで揺さぶられているはずだった。
とは言ってもこんなことで潜宙艦は沈みはしない。爆雷はじかに当たってそこで爆発しない限り致命的な打撃となることはない。
だが振動が治まるまでは何もできない。〈ヤマト〉に魚雷を射つこともできず、一徹》おやじに蹴り上げられる卓袱台(ちゃぶだい)のような床の上でただ体を揺さぶられるのみ。
そして、振動が止んだところで、来た。またキンキンとピンガーの音が。
〈ヤマト〉が射った次元魚雷。そして〈ヤマト〉自身も放つアクティブ・ソナーの合奏だ。さっきは24編成で遠のいていって聞こえたものが、今度は七つ近づいてくる。
「マスカー放射! 同時に急速浮上だ。避(よ)けろ!」
艦長のガレルが叫ぶのをゾールマンは聞いた。そうだ。やってくる魚雷は六基とはいってもこちらの船は六隻だから、一隻につき一基ずつ。次元マスカーを使えば躱すのは難しくない。
勝負はまだこれからだ! ゾールマンは思った。地球人の魚雷などに、一隻たりとも殺られるものか!
「やつは波動砲を使った……」と情報士官が言う。「ならばしばらくワープできないはずです。今なら拿捕できる!」
「そうだ!」と言った。「もらった! たとえ殺られても――」
「そうです! ただ一発だけ! 一発だけあいつに魚雷を喰らわせればいい! それで勝負はこちらの勝ちです!」
そうだった。その状況はもちろんまだ続いているし、むしろ〈ヤマト〉が波動砲を撃ったことでより確実なものとなったと言える。
今の〈ヤマト〉はワープで逃げることができない。だからこの六隻がたとえ沈められたとしても、シュルツ司令が味方を呼んで〈ヤマト〉を捕らえてくれるだろう。魚雷をただ一発だけ当てることができればいいのだ。そのチャンスをむしろ増やした!
そう言えるのだ。勝ったぞ、〈ヤマト〉! ゾールマンは思った。上から身を押さえつけられる力を感じる。船が浮上しているのだ。階を上がるエレベーターに乗ったときのように体がGを受け、倍ほどに重くなったのだ。
それを感じているわけだ。そしてキンキンと聞こえる音が、ごく小さな低くこもった音に変わった。
次元マスカーが効いたものに違いなかった。地球人の魚雷など、一発くらい〈デロイデル〉にはラクに躱せる。真正面からのヘッド・オンで来るものならばなおさらだ。
そう思った。そのときだった。
「海面上に機影ふたつ!」レーダー手が叫んだ。「戦闘機です!」
「ちっ」
と言った。あの銀色の戦闘機。こちらにまわり込んでいたとは。
狙っていたな、と思った。これも、あのオキタという男……。
「よくも!」
作品名:敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊 作家名:島田信之