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敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊

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不始末



シュルツの乗る潜宙艇は、次元海底の窪みに潜んでエンジンを止め、じっと動かないでいた。そうしている限り〈ヤマト〉のアクティブ・ソナーの探知にかかるおそれはない。

が、それができるのもここがまだ、〈大陸棚〉の上だからだ。しかしすぐ先でそれは終わり、〈海底〉は急な斜面となって深く落ちていっている。

その上に広がる〈大海原(おおうなばら)〉へ〈ヤマト〉は出ていこうとしており、今の自分はそれを〈下〉から見上げている他にない。これで〈ヤマト〉を潜宙艦艇で追うのは不可能となってしまった。

おまけに、と思う。あの銀色の戦闘機が何やら拾って〈ヤマト〉に持ち帰ったらしいのをいくつかの機器が捉えている。

「何を取っていったのだ?」

シュルツが言うと、

「ひとつはスパイカメラでしょう」ガンツが応えて、「迂闊(うかつ)でした。自爆装置がまさか無効になっているとは……こんなことは今までなかった……」

それはそうだ。これまで地球に無人機を何千機も飛ばしてきたが、自爆装置を掛けずにおいたなんて例(ためし)は一度もない。地球人が来るのを迎え撃つときも、すべて完全にそうしてきた。

けれどもここ――地球人が決して来れるはずのなかった一光年離れた宇宙で、自爆装置に意味があるのか。ない。ないはずだった。やつらは冥王星までの〈五光時間〉の距離を行くにも〈二ヶ月〉かかるようなやつらであったのだ。やつらの単位で言うとそうだ。なのにその一千倍遠く離れたこの宙域で、装備に自爆装置を掛ける意味があるのか。

ない。ないはずだったのだ。しかし、とは言えそれ以前に、それを確認していなかった。確かめていれば自爆装置はちゃんと有効にしておいただろう。

しかしそうしなかった。すべき確認を怠(おこた)っていたのだ。なんと迂闊な――戦闘機を緊急出撃させるときにその戦闘機のビームガンにエネルギーが込めてあるか確かめず出すようなものではないか。そんなことする戦術士がもしもいたなら絶対に、戦術士にしておくわけにいかぬだろうが。

なのにそれと同じことをやってしまったのだと言える。なんと迂闊な……。

いいや、迂闊どころではない。思えばあまりに拙速(せっそく)に事を運んでしまっていた。潜宙艦で〈ヤマト〉を殺れるチャンスは今だけしかない。そして今なら地球人に〈ヤマト〉を沈むさまを見せつけてやれる。それで総統の怒りも解けて、部下を故郷に帰してやれる――その一心で飛び出してきて、すべてを場当たりに進めていた。

その結果がこれなのだ。あのオキタという男に軽く捻(ひね)られて当然だった。

そして、空母だ。〈ヤマト〉がワープできない今なら空母の艦載機でもってあいつを拿捕できるかもしれない。だからすぐに寄越せるように手配しておくべきだったのに、それも怠ってしまっていた。

ここでやつが波動砲を撃つなんて考えてなかったからだ。撃って壊すものなんか何もないのに撃つわけがない。しかし空母をやつの主砲の射程外に置いたなら、『艦載機を出される前に』と言って撃つに違いない。それで殺られてしまうだけのことだから、空母を準備するのは無意味――そう考えてしまっていた。

だが、事がこうなるとは! 〈ヤマト〉から今、黄色と黒の戦闘機どもが飛び立って、船のまわりに陣を展開させているのがわかる。ワープができるようになるまで船を護ろうというわけだろう。どこから空母が来ようとも返り討ちにしてやるわ、と言わんばかりの陣形だ。

こうなるともう、今から空母と巡洋艦隊を来させても遅い。オキタのやつはすべて見越して策を講じていたに違いない。

驚くべき短時間でだ。あらためて思った。なんという恐るべき男。それに対してこの自分は……

なんという失態を。シュルツは己の過ちに身が裂かれる思いだった。

この敗北はただ潜宙艦六隻を失ったというだけでない。冥王星の不始末以上の不始末を自分はやってしまったのだ。結果として敗けただけでなく何か〈ヤマト〉に取られてはならないものを鹵獲(ろかく)された。

「なんだ」と言った。「もうひとつは何を取られた」

「わかりませんが」と通信手。「ことによると生きた兵士……」

〈ヤマト〉と戦闘機との交信は傍受させてもいたのだが、しかしはっきり聴き取れるようなものではもちろんない。切れ切(ぎ)れの断片的な情報から推測で補(おぎな)うしかない。のだが、通信手がそう言うのならおそらくそう――しかし、

「まさか」と言った。「そんな――まさかそんな!」

声を上げただけでなく、通信手に掴みかかるところだった。通信手も慌てた顔で、「いえ、はい、まさか」などと言う。

だが全員が愕然(がくぜん)となった顔を見合わせた。あの〈ヤマト〉に生きた兵士を捕虜に取られる? もしもそんなことになれば――。

「どうなるんだ?」とヴィリップスが言った。「もしもそんなことになれば……」

「知るか」と言った。「そんなことがあってはいかん……そんなことがあっては決していかんのだ!」

だがそんなことを言い合っていてもしかたがない。〈鵜〉はただそこに隠れている以外のことは何もできず、彼らは今あまりに苦い敗北の味を噛みしめるのみだった。