悪魔言詞録
87.魔人 ヘルズエンジェル
久しぶりだな、ぼうず。元気にしていたか。
呼び出したのは他でもない、この俺に聞きたいことがあるんだ? いいともさ、今はもう召喚主と使い魔の立場だからな。過去のことは水に流して何でも話してやろうじゃないか。
ほほう、バイクの魅力を教えてくれと。おまえ、バイクに興味を持つなんてなかなかよく分かってるじゃねえか。ここだと同士もなかなかいねえから、ツーリングにも行けやしねえんだよな、土地だけはこんなにあるのに。
まずはだ、ぼうず。バイクの一番の魅力をずばり言おう。それはな、風になれることなんだ。
今のおまえは大変な立場だろう? いろいろなやつの言うことを聞き、いろんなやつのために動き回り、そのたびに死を賭して戦ってる。自分が何のためにそれをしているのか、そもそも自分はなんなのか、それすらも整理がついていない状況だろう。そんな中で重大な決断をして、自分の、ひいてはこの受胎後のトウキョウの運命を決めなければならないという大変な状況に置かれているわけだ。
でもな、そういう状況で頭をフル回転させて考えたって、ごちゃごちゃしてなかなかうまくまとまんねぇんだ。そう、いうなれば理性には限界があるんだよ。そういうときにな、こいつに乗ってどこまでも、どこまでもかっ飛ばすのさ。全ての荷を下ろしていい。なんにも考えなくていい。ただただ流れていく景色を、いや、それすらも見なくたっていい。とにかく、無心で風になるんだよ。
そしたら、きっとその先、スピードの果てに、おまえが本当に知りたいことややりたいことが必ず見えてくるはずさ。
まあ、言葉を重ねるよりも、一度こいつにまたがってエンジンを吹かしちまったほうが手っ取り早い。ちょっと貸してやるから、少しここらへん乗り回してこいよ。
何? 免許を持ってない? 原付すら?
おい、悪魔が何を律義に法律を守ってんだよ。それに、受胎で警察官はもういねえじゃねえか。変なとこで真面目なんだな、全くもう。