悪魔言詞録
83.鬼神 オオクニヌシ
いやあ、召喚主さんも苦労してますね。
あ、別に嫌みとかじゃないんです。ただ私も大昔、いろいろ大変な目に合っていた時期がありまして。
ええ、実の兄弟や後に義理の父になる人といろいろあったんです。あれには、ほとほと参りました。
……いや、昔の話はよしましょうか。今はもうあなた方の時代で、実際に奮闘しているのもあなただ。私はあなたに合力こそすれど、昔の手柄を吹聴するのはお門が違いますよね。
いや、ぜひ聞かせてほしい? じゃあ、手短にちょっと話してみましょうか。
昔ね、あるいい女にほれられたんですよ。したら、兄弟がそれに嫉妬しちゃって。それで見事にだまされて、焼かれた岩につぶされてしまったんです。まあ、そんときはどうにか生き返ったんですけどね。その後も大木の割れ目に挟まれちゃって、二度も殺されてしまったんですよ。このときもどうにかこうにか生き返りました。でも結局、私は兄弟から逃げ出すしかなかったんです。
で、いろいろあって偉い人に匿われることになったんですが、そこの娘さんがすごい美人で。しかも、その娘のほうもまんざらでもないという感じなんですよ。でもその偉い人はとても強大な力を持った方なんで、なかなか私のことを認めてくれないんです。嫁いびりなんて言葉がありますが、これじゃあむこいびりですよ。まあ、そのときはまだ結婚してませんでしたけどね。
で、その内容がひどいのなんの。蛇や蜂のうじゃうじゃいる部屋に泊まらせたり、私を野原に誘い込んで火を放ったり、その方のムカデだらけの髪の毛を整えろだったり、まあつらかったです。
でもこれらを彼女の機転だったり、ねずみに助けられたりでどうにか切り抜けたんです。そうしたら、ついにその方も僕を認めてくれましてね。そのおかげで憎き兄弟をやっつけたんです。
え? とりあえずあんたが女好きだということは分かった? いや、まあ、確かにそうですけど。いや、本当に大変だったんですって……。