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光陰

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 護廷十三隊第十三番隊第三席――虎徹清音は、いきなり目の前に現れた長身の影に驚いて、思わず書類を手から取り落とした。
「おっと。ご免よ、驚かしちゃったかい」
 影はそう言って、清音の落とした書類の束をスッと差し出した。
 一枚も床に落とさず瞬時に集められた書類にはやや皺がよっていたが、そんなことは構わなかった。雨乾堂へと続くこの回廊で紙のように軽い物を落としたりしたら、たちまち風にさらわれるのは必至だ。水に落ちてしまえば取り返しが付かない。
 清音はドッドッと早い鼓動を刻む胸をなで下ろし、安堵の息をついた。
「ああ、よかった。すみません京楽隊長、ありがとうございます」
「いやいや、声もかけずに近づいたボクが悪かったんだよ。ちょっと急いでたモンでね」
 言われて清音も気付いた。京楽の瞬歩の早さも相当なものだったのだろうが、加えて彼は霊圧を完全に消していたのだ。そうでなければいかな清音でも、誰かが大変な速度で近づいてきていることくらいわかったろう。十三番隊の第三席は、無能ではつとまらない。
 そうまでして、京楽が自分にいったい何の用があるのだろうか。清音は首を傾げた。いずれにせよ浮竹絡みだろうが、それにしても今日は――
「京楽隊長、あの、隊首会さぼ……じゃなくて欠席されたんですか?」
 一番隊隊舎で隊首会が行われているはずだった。浮竹も朝からきっちり隊長羽織に袖を通して出かけていった。
 おそるおそるそう尋ねると、京楽はわざとらしく眉尻を下げて、「ひどいなァ、清音ちゃん」と苦笑する。
「さっきまでちゃんと出席してたよ。ただ、今回は急を要する件じゃァなかったからね、もう終わったんだ」
「あ、そ、そうでしたか、失礼いたしましたッ!」
「なァに、気にしなさんな。朽木隊長あたりに聞かれたらつめたーく『それだけ普段の兄の行いが悪いということだ』とか言われそうだ」
 白哉の声マネはちっとも似ていなかった。清音は口元でふふっと笑みを零す。
 清音も仙太郎も、この浮竹の親友である八番隊隊長が大好きだった。自分たちと同じように、浮竹を心の底から好いて、大事にしているというニオイが感じとれるからかもしれない。
 格上の者にも格下の者にもまったく態度を変えず、おっとりと話しかけるところなどは浮竹にも似ている。そんなところも好もしい。
 結局、清音の判断基準は浮竹にあるのだった。
「あれ? でも隊首会が終わったのなら、浮竹隊長は」
「ああ、浮竹なら他の隊長さんたちと談笑しているよ。久々の出席だったからね」
 言われてみると、浮竹はここのところ隊首会の開かれる時に限って必ず寝込んでいたから、連続しての欠席となっていた。今朝のはりきり様はそれもあってのことだったのだろう。清音は浮竹の様子を思い出して微笑んだ。
「それなら良かった。今日は隊長も朝から調子がいいようだったし…」
 言いかけると、京楽がスッと真顔になる。
「……そのことで来たんだよ」
 いつものほほんとしているこの男の、これほど真剣な表情を見る機会はあまり多くない。清音はそれが表す意味をよく承知していた。キリリと顔を引き締める。
 ――ああ。だからこその瞬歩なのだ、と思う。
 京楽は、浮竹がここに戻ってくる前に、清音か仙太郎に話をしておきたかったのだ。
 清音は小さな唇をギリと噛みしめた。
「今朝は……ホントにお元気そうだったのに」
「本人に自覚がないときほど厄介なものだよ。自らの身体の異常を感じ取れなくなっているってことだからね」
「…………っ」
「清音ちゃん。口が切れてしまうよ、噛むのはよしなさい」
 窘められてぼんやりと京楽を見る。清音を見下ろす瞳に力強い安定の光を見つけて、少しだけ心が落ち着いた。確かに嘆いていてどうなるものでもないのだ。肝心なのは、浮竹のために自分が何をできるか、どう行動するか。
 くっと顎を上げて、清音は真剣な顔を京楽に向けた。
「いつ頃でしょうか」
「おそらく、夕刻から夜半にかけてってとこだろう。……その間、浮竹から目を離さないでいられるかい?」
 眉を寄せて考え込む。
「私は……無理です。これから出張が入ってます。入れ替わりに小椿が帰ってきますから、アイツによく言い含めておきます」
 いつもいがみ合っている三席二人は、こと浮竹の体調のことになると途端にコンビネーションが良くなる。京楽は表情を和らげ、ふわりと微笑んだ。
「たのんだよ」
「ハイ! ……ありがとうございます」
 忠告に対しての礼ではない。自分たちを信頼し、浮竹を預けてくれることへのありがとうだ。副隊長の座が空席になって五十年。清音と仙太郎はこんなやりとりを幾度となく繰り返してきている。
 京楽の「予言」が外れたことは、一度としてなかった。
作品名:光陰 作家名:せんり