二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Killertune

INDEX|7ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 

03 罠にご注意/宇都宮高崎めいたJR首都圏在来上の方



「宇都宮ぁ!」

 怒り狂った、としか表現しようのない声がして、ああ、とわずかに京浜東北は顔を上げた。しかしそれだけだった。なぜならそれは日常茶飯事であり、いちいち反応していたら身がもたないというか、疲れるだけだと知っているから。
「あははは、つかまえてごらん高崎」
 待ててめえふざけんな、とかいう罵声と、廊下を駆け抜ける音がする。相変わらず良くやる、と京浜東北は溜息をついた。今度は何をやらかしたんだか。
「ま、興味ないけどね」
 害を被らない限りは、と嘯いて、京浜東北は完全にその追いかけっこらしい音声を意識の外に追い出した。

 高崎は確かに真実怒り狂っていた。というか元から沸点はそんなに高くはない。
「…ったく、どこ行きやがった」
 ち、と舌打ちしてあたりを見回すも、宇都宮どころかペンギンだっていやしない。高崎は悔し紛れに床を蹴った。
 …今回は。そう、今回は、だ。
 毎度毎度毎度趣味だろう、趣味なんだよな?というくらいに詐欺まがいのあれこれを繰り広げてくれる宇都宮だが、今回はまた手が込んでいた。
 目覚ましを、改造してくれたのだ。
「くっそ、信じらんねえ…!」
 思い返すとはらわたが煮えくり返ると同時に腰が抜けそうになるのがもう嫌でたまらない。これは生理現象だ、あの馬鹿をどう思ってるかとかは全然全く関係ない!と高崎は頭をぶんぶん振って考えを切り替える。そしてまた、闇雲に廊下を駆け抜けていくのだった。
「…ほんと、可愛いよね、高崎は」
 まさか廊下の角の四角で宇都宮がほくそ笑んでいるとも知らずに。

 ――それは今朝のことだ。
「おきて、高崎…」
 耳元で声がして。うるせえな、まだ眠いんだ、ねかせとけ、と機嫌悪く唸って。だが、声はしつこかった。
「起きて高崎」
「…るせ…」
 払いのけようと腕を動かしたら、声がした。
「もう、高崎はしょうがないな。キスしてあげるからおきなよ」
「…あ?」
 寝ぼけた頭が、様子がおかしいな、と渋々浮上してくる。
「ほら、どこにキスしてほしい? ふふ…、正直だね。かわいいよ…、じゃあ、君が一番好きな所にキスしてあげる。ほら、足を開いて…恥ずかしがることないよ」
「…う?」
「なんだ、もうこんなによだれをこぼして…我慢できなかったの?ふふ、さわってあげる。ねえ、気持ちいい…?」
「なーーーーーーーっ?!」
 がば、といかな高崎といえど、ここまで垂れ流されて起きないわけがない。
「ど、どどどどどこにチューしてんだよおい?!つーかどこ触ってんだよ?!」
 しかし頭を上げてあたりを見回しても、誰もいない。…声の主など当然いない。
「…あんのやろう…!」
 ご丁寧にも目覚ましを改造して、自分の声を録音しておいてくれたあのドSの顔(そっくりだといわれるがとんでもない、前髪の分け目も違うし自分のほうがつんつんしてかっこいいヘアスタイルのはずだし目つきも凛々しいはずだ)(といったら京浜東北から哀れみのこもった目で見られたのが今でも納得いかない)を思い出しながら、高崎は目覚ましを渾身の力で壁に投げつけた。
 目覚ましには、罪はないのだけれど。

 で、それから高崎と宇都宮によるデッドオアアライブ鬼ごっこは続けられているのだが、京浜東北は端から無視し、埼京はとりあえず巻き込まれることを恐れて近寄らなかった。今のところ何の障害が出ているわけでもないし、だったら放っておくのが一番だった。埼京だって学んでいるのである。これでも。
「…高崎に足踏まれた。オレはもう今日は動けない。運休だ」
 そしてちゃっかりダシにしようとしているのは武蔵野で。
「あんまり馬鹿なこと言ってるとひどいよ武蔵野」
 そんな武蔵野に、嫌々なのか楽しいのか何とも微妙な所だが、薄笑いでおどしをかけるのは京浜東北の役回り。まあ半分は趣味だろう。
「ひどいってなにすんだよ」
 だが相手の無気力は筋金入りだ。けろりとして口答えする。とはいえ京浜東北だって、根性だったら通っているわけで。
「東京駅の京葉線・武蔵野線乗り場を東北上越秋田山形長野新幹線改札のすぐ近くに移動させる」
 淡々と言われた台詞に、武蔵野の口元が引きつった。あれはもう有楽町駅だ、と言われるたびに、そっちの方が気が楽だし全然いい、と本当にそう思っている調子で言う武蔵野だけに、これは心底真剣に嫌なのだろう。
 元がいい加減な男だ。規律の塊のような上官の近くに配されるのはそれだけで嫌だろう。
 そして、ダメ押しとばかり京浜東北は追加する。
「それから、朝霞の接続には線がつながってるんだししばらく京葉をいかせることにしようか」
 風に弱いのは一緒の東京湾岸を走っている奴の名前を挙げれば、武蔵野の顔が本気で嫌そうなものになった。
「だって、武蔵野は働く気がないみたいだし?」
 ねえ、と薄笑いで念を押してくる京浜東北に、武蔵野は面白くもなさそうに口を尖らせた。
「…わーったって。働きゃいいんだろ、働きゃ」
「別に僕は強制はしてないけど?」
 君の好きなようにしたら、と笑う京浜東北は、人の扱いというものを重々心得ているといえるだろう。

「うーつーのーみーやー!」
 今日も可愛いね(本数が)と伊勢崎をからかっていた宇都宮の耳に、執念深く追いかけてきていたらしい相手の声が聞こえてきた。
 何したの?と呆れたように見上げてきた伊勢崎には心底楽しそうに笑って、宇都宮は唇の前で指を立てた。
「ちょっと、罠をね」
「罠?熊とか狐とかつかまえるやつ?」
 ワイルドなことを口にした伊勢崎に瞬きした後、宇都宮は小さく笑った。
「そんなに大げさなものじゃないよ。もっとスマートなものさ」
「…スマートだかトマトだか知らないが、どうせろくなもんじゃねえだろ」
 伊勢崎の後ろから不意に現われた日光が、今日も不機嫌そうに宇都宮に食って掛かって、伊勢崎を後ろから抱き寄せる。わあ、とバランスを崩した伊勢崎の前を、長身が駆け抜けていく。
「あ、」
 軽く目を瞠って伊勢崎が声を上げるその先で、高崎が宇都宮に飛びつき、逃がさないとばかりマウントポジションを取った。
「見せ付けてくれるな」
 頭の上で皮肉っぽく言った日光の言葉に、へ、と高崎がそちらを振り返れば、そこには嫌味っぽい笑いを貼り付けた日光が伊勢崎を抱え込んでいた。
「行くぞ伊勢崎。俺たちは忙しい」
「え、あ、うん?」
「じゃあな、宇都宮。青カンは感心しねえぜ、ほどほどにな」
「ああ、ありがとう日光」
 高崎と伊勢崎だけがわけがわからない顔でえ、とかあ、とか言っているのだが、日光は振り返りもせず、宇都宮はといえば楽しげに目を細め、自分に馬乗りに乗っかっている高崎の頬に触れながら、去り行く日光の背中に返した。
さあ、楽しい時間の始まりだ。
「高崎?」
「……、やっと捕まえたぞこのやろう!なんだあの目覚まし!」
すっかりわかっていないながらもとりあえず原点の怒りに立ち返ったらしい高崎が怒鳴りだすのに、宇都宮は実に楽しげに笑って、返した。
「こんなに熱烈に追いかけてきてくれて嬉しいよ?高崎」
 とんでもないことをいわれて、高崎は目を回したけれど、…後の祭りというものだったに違いない。

 合掌!
作品名:Killertune 作家名:スサ