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バトンを繋ごうRPG 『勇者の旅立ち』
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バトンを繋ごうRPG 『勇者の旅立ち』[小説コミュニティ]

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勇者ノベリットの冒険

かざぐるま}
かざぐるま
勇者は村を出た。装備も魔法もまだ持っていない。とりあえず北の森に向かってノベリットは歩き出した。そこに突然!!
2013-07-11 19:30:04

コメント (196)

匿川 名  2019-07-28 22:13
「甘えるのもいい加減にしろ」
種田はそうノベリットに告げた。
酷薄な言葉とは裏腹に、その言葉は暖かかった。
ノベリットはその暖かさを感じながら、どうしてそういう風に言葉を紡げるのかが不思議だったので、呆然と種田を見返すことしか出来なかった。

「この世界はどこまで行っても理不尽なものだ。誰だってそう思っている。それか、気づいていても知らない振りをする。分かってないつもりになる。不公平、不平等――――それでもそれはどうにもならない。ある詩人が言った言葉だ。『誰かの背は誰かよりも大きい』。それはまさにその通り。しかしそれを嘆いても、誰も何かをしてくれるわけでは無い」

種田の言葉は鋭利だった。
なのに、その底流にはずっとある種の暖かさが備わっているようにノベリットは感じた。

「他人の背の高さを受け入れるしか無い。生まれた家の貴賤を受け入れるしか無い。その中で足掻いてヒトは生き続ける。昇るも墜ちるも自分次第というわけだ。しかし――――それでも覆い返しがたい事象は存在する。例えば、その剣は貴方を選んだ。揮いたくとも私にはその資格が無い。そして、

今、
この場を収めることが出来る可能性を持つのは、
実に貴方ただひとりしかいない」

種田はそう呟いて、ノベリットの剣の柄をぐいっと持ち上げ、目の前にかざした。
そこには――――

『掲げて撫でよ』

見た言葉が変わらずそこに浮かんでいる。
しかし、それはまた彼に向け告げ戻したようにノベリットには感じられた。
それは剣の意思、剣の言葉。
ならば同じ言葉であったとしても、切実に求め彼に告げ直したものであったとしたら、
同じ刻みであったとしても、彼に与える促しは異なる重さを持ちうるのだろう。

匿川 名  2019-07-28 21:52


『亀』が崩れたことで、世界は崩壊への途を歩み始めた。
今、それは『端』に過ぎないのかも知れない。
しかしあらゆるものに『要』は存在するのであって、それが砕かれてしまえば包括的な崩壊は免れない。
『亀』は当に『要』であった。
その亀の死は『星を飲み喉につまらせた死んだどこかの亀』と同じで、この世界を背に乗せる雄大な存在であったため、有象無象はその上で這うだけの矮小な塵芥も同然と言えた。
聞く者が居ればがらがらという崩壊の序曲が聞こえたことであろう。
だがその崩壊の規模はあまりにも大きく、かつ『端』から始まるため、聞く者は寧ろ存在しなかった。
今、この世界に存する者で、その崩壊を止め、或いは留める者は全く存在しない。

匿川 名  2019-07-28 21:42
「――――駄目だ」
伝説の剣に砥石を重ねるまさにその寸前で、ノベリットの手が止まった
ぱたりと両の手をそのまま体側に垂らす。
剣は力なくその切っ先を大地に下ろし、砥石は掌からずるりと滑り落ちかけた。

その時、種田がそっと手を伸ばして、砥石を掴むノベリットの手を自らの両手で包んだ。
砥石は辛うじてノベリットの手の中に残った。
ゆっくりと力を込める種田の指にノベリットは震えた。
そこには、信頼があった。
きっとそれは伝説の勇者に捧げる無闇な期待だ。
そしてノベリットにはその信頼が、途方も無く、怖かった。
「諦めてはいけません。貴方こそは――――」
「違うんだ!」
ノベリットは語りかける種田の声を制して叫んだ。
「自分は勇者なんかじゃ無い!
 なんでそんなことを言うんだ!
 自分は、ただ、ただちょっとした名声が欲しかっただけの流浪者に過ぎないのに!
 こんな砥石なんていらない!勇者の剣なんて知らない!迷惑だ!迷惑千万だ!」
そして左手に力を込めて、種田の手を振り払おうとした。
しかし、種田はその手を離さない。
泣き顔でノベリットが首を左右に振る。
駄々っ子がそうするように、みっともなく、言葉にならない大声をわあわあと上げながらノベリットは種田の手を振り払おうとし続けた。
すると、種田の右手がノベリットの左手からずるりと離れた。
逃れる――――
とノベリットが思った次の瞬間、
――――種田の右手が横薙ぎにノベリットの頬を乾いた音を立てて叩き付けた。

匿川 名  2019-07-28 21:30
落ちよ、落ちよ、墜ちよ。

男は水晶球の上にひらひらと、両の手を枯れた蝶のようにかざしながら、恍惚の呪詛をただ述べ続けた。
その中に映るのは黒く閉じた球だった。
塵のように薄く粉舞うそれは、カイザーとアニエスを内に閉じ込める胎そのものだった。
はあはあと息遣いも荒く、男はぎらぎらと怪しく刮目したままで呪いの完成を待っていた。

落ちよ、落ちよ、墜ちて焦がせよ。

男の邪悪な祈りに応じて黒雲が空に舞う。
蛇蝎のような『それ』は、或いは凶兆の竜のように天空を舞い、命在る魔のように地上の球を、或いは黒き胎を睨めつけるかのようだった。

その竜の体躯に白い鱗の模様が這う。
空に低く轟く地響きのようなそれは、男が編む邪心の拳で、
詰まりは、
雷の姿をしていた。

匿川 名  2019-07-28 21:18
※業務連絡※

さて、プロフで何となく告知したとおり、今日はこれから『リアルタイム更新』で行きたいと思います。
脇にはサーモスのタンブラーに入った冷えたビールが一杯。
手元のMacBookAirのバッテリーは92%。
目標は午後11時半頃までで行こうかなあと。

いま、ぐびりと1口。

誰も見ていないでしょうけど・・・では、書き始めますね。

匿川 名  2019-07-15 23:52


闇は濃く二人を包んだ。
カイザーとアニエスにはもう殆ど視界は無い。
取り囲み在るのは百万の黒犬の牙と、そこからだらだらとしたたる汚らしく臭い獣の涎ばかりだ。
牙は噛まず、威嚇を繰り返す。
アニエスが白刃で薙いでも黒い霧と化してはまた闇に戻り、汚い牙へと還る。
カイザーは猛烈に殴りつけるが粉砕しても同じことだった。
手応えはある。粉砕はされる。
しかし無数の牙は闇へと戻り、牙へと還る。
無限の闇が二人を包囲しつつあり、通常、そこには絶望しか無いと思われた。
だが――――

「カイザー、何を嗤うのです」
アニエスがカイザーに尋ねた。
邪悪な闇の中ですら、カイザーの朗らかな微笑みはその気配をアニエスに雄弁に伝えた。
「なに、ここまでやり込められたのは初めてのことではないかと思っていたのよ。実に八方塞がり、そのように見えるのだろうな」
鷹揚とした言葉の紡ぎにアニエスもつられてふふと微笑む。
「まるで他人事のようですね」
そしてそう呟くと、カイザーははっはと嗤い声を上げた。
「今、間違いなく我らの様子を見ている者が居る。絶対安全な処(ところ)から、我への妬みだけに狂い、対し震えることさえ出来ない哀れな小男がな。――――そう、我が嗤いを堪えきれないのは、当(まさ)にこれが『他人事』だからよ。覗く世界に、完成を夢見たとして――――嘆くが良い。何しろ我らには『英雄』がいる。今の危難など直に消し飛ぶのさ」
二人を取り巻く闇はいよいよその濃さを極め、アニエスは束の間カイザーの方を首だけ回して垣間見た。
するとカイザーも同じようにアニエスの方を眺めていた。
彫像のように彫りの深い男の顔が、それまで彼女が見たことも無いような慈愛を湛えて向けられていた。
瞬間、その瞳の中に吸い込まれそうな何かをアニエスが感じたまさにその時、

「ところでお前――――いい女だな」

朴訥とした口調でカイザーがそう呟いた。

アニエスの口元が緩み微笑みを形作ると同時に、
歪な球のような形をした闇は、
――――二人を、その胎に完全に飲み込んだ。

匿川 名  2019-07-15 23:47
その唸りは物言わぬ剣の訴えのようで、応じて黒い石を受け取ったノベリットは、左手に石を持ち替えると、ゆっくりと右手で柄を握り鞘から剣を抜いた。
鈍い黄金色をした柄にはふわりと血の赤をした文字が薄ら輝きながら浮かび上がる。

『掲げて撫でよ』

そこにはひと言、そう綴られていた。
掲げて、撫でよ。
ノベリットは言葉を受けて、眉を潜めながら左手の中に包み込まれた黒い石を刃へと向けた。
吸い込まれるように、研がれたままのような白銀の刃へと、漆黒の色をした石が近づいていく――――。

匿川 名  2019-07-08 00:04
ふとその種田の落ち着いた様子から、ノベリットは自身の濡らした股間のことが思い出され、不意に湧き上がった恥ずかしさにぐうっと深く俯いた。
「気にすることはありません。私だって怖い。自然なことだと思いますよ。むしろ、彼らが異常なだけです」
種田はそう呟いて顎で軽くカイザー達の方をしゃくり示した。

「じゃあ、じゃあなんであなたは」

ノベリットは尋ねるつもりだった。
種田のそのどこか超然とした在り方を。
何故そう在れるのか。
無限に湧き上がる恐怖をどうやって飼い慣らしているのか。

その時種田が懐に手を入れて、ごそ、と何かを取り出した。
「これを使いなさい」
種田はそしてそう呟き、ノベリットにひとつかみの平たく黒い石を差し伸べた。
「これは」
尋ねるノベリットに種田は頷いた。
「あなたがきっと探していたものだ。そして僕が父から預かってきたものでもある。これは古代語で『ジャクワィ・デゥ・トルディステゥーン』というもので、今の言葉で言うならば――――『伝説の砥石』だ」
ノベリットは目を見開いた。

「世界が終わろうとしていることは父も識っていた。
 我らの祖先の霊が囁いたらしい。
 だからこそ私はあなたを追ってきた。
 これを、いまこそその手に取って――――」

呆然とノベリットは種田が差し出す黒い石に向け、自らの右手の平を被せるように伸ばし始めた。
その時、ノベリットの腰で伝説の剣か小さく震えるような唸りを上げ始めた。

匿川 名  2019-07-08 00:01
「やあ、これは酷い」
ふと、ノベリットの右耳の側からそっとそんな声が響いた。
あまりにその距離が近かったので、反射的にノベリットは首を勢いよく回し声のした方に振り向いた。
そこに立て膝で腰を下ろしていたのは一人の男で、視線は黒龍のような渦巻く黒雲とその直下において宙(そら)を見上げる男と女――――カイザーとアニエス――――の方に向けられていたままだった。
「――――種田――――さん」
ノベリットは呆然と男の名前を呼んだ。
男は、種田和夫は口元に微笑を浮かべてノベリットの方に少し顔を向けると軽く会釈をした。
「しばらくです」
種田はそう言ってまたノベリットから視線を切り、前方に広がる禍々しいばかりの光景を眺めた。

『禍々しい』


  実に、禍々しい。


なのに、とノベリットは思う。

なのに、なぜ種田さんはこんなに涼しい顔をしている?

匿川 名  2019-07-03 23:02
「拙いなこれは」
カイザーがそうぼそりと呟いた。
目を細め、アニエスが取り囲む闇に向け刃を横薙ぎに一閃させた。
しかしまさに虚空を切るが如く、刃は何の手応えも無いままに水平の円弧を描くのみだった。
「何が起ころうとしているんです」
アニエスはカイザーに尋ねた。
「なに、我らを灼こうとしておるのだろうよ、あの阿呆は。此処は焦点で中点と為るのだ――――おそらく、雷のな」
その言を受けてアニエスは濃く満ち行く闇の中に向け、一歩足を踏み出した。
すると忽ち――――
――――狗が闇の中から首をもたげ、滴る涎に汚れた牙をアニエスに向け突き出してきたので、反射的に彼女は身をよじりそれを避けた。
そしてそのままの姿勢からさらに垂直に刃を薙ぐ。
闇の中から実体化した犬の首は彼女の白刃に打ち落とされて、どたっと地面に転がった。
かと思うとそのまま闇が伸び、落ちた首と自らを繋ぎ、拾われた首はしゅうと音を立てながら霧の粒子と為って闇の中へとまた消えた。



地面に膝をついたまま、ノベリットはがくがくと腿が震えるのを止める術も無く、閉じ行く闇をひたすらに呆けのように眺めていた。
その時ふと内腿に温い何かを感じて俯いた。
――――下衣がぐっしょりと湿っている。
自分が失禁していたということにすら気づかず、いや、気づかなかったことが急に愉快に感じられでもしたのか、ノベリットの両足から力が完全に抜けた。
くたっと膝が折れ、地面にぺたりと尻餅をついた。
がくんと落ちた両腕で身体を辛うじて支えると、世界の総てが邪悪な観劇のように感じられた。
その彼の耳に届いたのは地響きに似た低い、うねりの音だった。
――――それは遠雷。
空にぼんやりと向けた彼の目の中に、渦を巻くように黒雲が立ち上るのが映った。
蜷局巻く竜のように、渦の中点は目指している。
打ち下ろす拳の先を見据えている。

球のように閉じ行く闇の直中を、
『いざ、いざこそ皇を討たん』と喜悦に満ちた狂った目が、
ひひと歪んでのたうっているかのように――――


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