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宙(評価の為、晒し中)
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novelistID. 1345
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見知らぬ天井

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どうしてこうなった。仰ぐ天井の目を数えながら、音無は何度目になるか判らない呟きを胸中で零した。
 見慣れない天井には染みひとつなく、白いそこには蛍光灯の明かりが設えられている。広くはない寝台の上は程々に寝心地も良く、疲れた体はこのまま眠りへと引き込まれそうだ。そう、ここにいるのが音無ひとりではなければ……。
 音無は自身の視界に揺れる髪をじっと見詰めた。
 自分の上に圧し掛かっているそれが女の子であれば、まだ手放しで喜べたかもしれない。据え膳食わぬはなんとやら、ではないが、音無は健全な男子高校生であったからだ。だが今自分と至近で見詰め合っているのは、間違いようもなく、紛れもなく自分と同じ制服を纏った男子生徒だった。
 名前以外は何も知らない。日向という存在。人懐っこい笑顔の裏には、きっとゆりや岩沢のような陰があるのだろうけれども、そう言ったところを感じさせない。それは彼が莫迦だからと言うよりは、彼が莫迦を演じているからなのだろう。
 仲間内に馴染ませる為だったのか何くれなく面倒を見てきた日向は、何処かで一線を引いていて、それ以上の裏を音無に見せなかった。それに気付いていたから、音無も彼の引いた境界線を踏み越えようとはせず、彼の演じる男子の友情に乗ってやることにしたのだ。
 だからこそ、どうしてこうなったのかが判らない。
 何故自分は寝台の上に押し倒されて、そして今にもくちびるの触れそうな距離に日向の顔があるのか、音無には判らなかった。

「日向……?」

 おそるおそる彼の名前を呼ぶ。顔が近すぎて、日向の表情が良く判らない。ふざけているのか、それとも何か他に意図があるのか。それが判らないと身動きのしようもなかった。名前を呼んでも、こちらを見詰めてくる瞳の強さは変わらず、音無はそっと日向の腕に手を伸ばした。
 びくっと大袈裟な程、その体が跳ねる。その大仰な反応に惑って、些か強すぎるほどに腕を引いてしまう。そうすると光の加減か、彼の瞳が揺れたように感じられて、音無は突然日向を抱き締めたいような衝動に駆られた。それを何とか理性で押し留めて、そしてその衝動に愕然とする。
 音無は記憶はなかったが、自分のセクシャルな部分が同性に向けられたものではないと、何となくではあるが感じていたし、ましてやそれが出会って間もない日向に向くとは思っていなかった。だがその一瞬で湧き上がったそれは、正しく情動と名付けられるべきもので、その後ろめたさに音無は日向から目を逸らした。

「音無」

 目を背けたことを拒絶と取ったのか、日向の声にいつもの明るさはない。それは捨てられた子猫のような心細さを感じる声だった。その響きに益々どうしようもない焦りを覚える。判るのは日向がいつもの日向ではないことだけで、どうすれば良いのかすら判らない。もしこれがゆりや、他の誰でも良いSSSの面々ならば、こうしたときどうすれば良いのか判るのかもしれない。けれども付き合いの浅い音無は、もどかしくも何もしてやることが出来ずにいた。

「音無」

 先程より僅かに強く名前が呼ばれ、逸らしていた視線を半ば強制的に引き戻される。そうして見た日向の表情に、音無は動揺した。
何かを請うような視線。引き結ばれたくちびる。惑いを孕んだ表情に、全神経が引き寄せられるように感じた。

「あのさ、これは神に消されない為の作戦なんだよ」

 擦れた声は緊張の為か、それとも自分のように彼も感情の高ぶりを感じているのか、まるで誰かに言い聞かせるように日向は語る。

「真面目な生徒はさ、不純同性交遊なんてしないだろ。
 だから、これは……」

 作戦だ。そう言った日向は、まるで祈るようにぎゅっと目を瞑った。それが誰の為の言い訳だったのかは判らない。それでも音無は寄せられてくる日向のくちびるを、避けることが出来なかった。