春の三角巾(仮)
予想に反して年を追う毎に、伊作は様々な隠しきれない痕を纏って仙蔵の前に現れる。片腕を吊っていた年に問い詰めると、言いにくそうに口を開いた
「今の診療所を借りるのに口を利いてくれた人がこういうの好きで、それで。」
普段は聖人君子のような男だと言う。その代償のように若くてそこそこ頑丈そうで見目の良いのを見繕って酷くする、その償いのように善行を積むのだった。細君を含め周りの者へは打ち明けられないその性癖を場所も金も都合する代わりに伊作で晴らす、男と伊作はそう言う契約関係なのだった。
あんまり仙蔵には言いたくないなぁと前置いて語られた内容に仙蔵は口の塞がらない思いだ、というと嘘になる。何故なら学生時代から伊作はその手のやからには酷く好かれる質だったからだ。
「悪い人じゃないんだよ全然。ほんとに駄目になっちゃうような事はしないし」
「当たり前だ」
「……軽蔑した?」
「するはずなかろう」
よかった、と笑う伊作の左目元に治りかけの痣を仙蔵は見つける。袖をまくればもっと沢山見つけられるだろう事にすぐ思い至ったけれど手は出さずに、あまり無理をするなよ、とだけ言い添えて吊った腕を少し、撫ぜた。