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春の三角巾(仮)

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この桜の咲く頃に、というそれは口約束だったけれど意外にも長く続けられていた。春に仙蔵に叱られないようにって過ごしているよ、と伊作は笑う。仙蔵は伊作の目立つ痣を気に病みながらそれでも笑い返す。随分危険な仕事も受けているらしかったが、沢山お金を作って町医者をしながら陽忍をしたいと語る伊作を止める術は持たなかった。それに数年も経てば戦へ赴く事も怪我も減ろう、と甘い見通しを持っていた
予想に反して年を追う毎に、伊作は様々な隠しきれない痕を纏って仙蔵の前に現れる。片腕を吊っていた年に問い詰めると、言いにくそうに口を開いた
「今の診療所を借りるのに口を利いてくれた人がこういうの好きで、それで。」
普段は聖人君子のような男だと言う。その代償のように若くてそこそこ頑丈そうで見目の良いのを見繕って酷くする、その償いのように善行を積むのだった。細君を含め周りの者へは打ち明けられないその性癖を場所も金も都合する代わりに伊作で晴らす、男と伊作はそう言う契約関係なのだった。
あんまり仙蔵には言いたくないなぁと前置いて語られた内容に仙蔵は口の塞がらない思いだ、というと嘘になる。何故なら学生時代から伊作はその手のやからには酷く好かれる質だったからだ。
「悪い人じゃないんだよ全然。ほんとに駄目になっちゃうような事はしないし」
「当たり前だ」
「……軽蔑した?」
「するはずなかろう」
よかった、と笑う伊作の左目元に治りかけの痣を仙蔵は見つける。袖をまくればもっと沢山見つけられるだろう事にすぐ思い至ったけれど手は出さずに、あまり無理をするなよ、とだけ言い添えて吊った腕を少し、撫ぜた。
作品名:春の三角巾(仮) 作家名:あおい