原田羅刹化
「最後になにか言いてぇことはねぇか? 辞世の句でもいいぜ?」
不知火さんが原田さんの額に拳銃をつきつける。
「…っ、辞世の句だぁ…?
俺はまだ、そんなもんを
詠むつもりはねぇんだがよぉ…」
原田さんは笑っていた。
拳銃を額につきつけられているのに、笑っていた。
「原田…さん?」
私は恐る恐る彼の名を呼んだ。
「千鶴…、俺の後ろにいろよ。」
原田さんはそういうと、
小さい瓶を手にした。
…変若水だった。
「…へっ、こんな女鬼の為に羅刹になっちまうなんてな…」
不知火さんは少し驚いた表情をしていた。
原田さんがその小瓶を一気に飲み干すと、みるみるうちに髪は
白くなり、束ねていた髪紐が
床に落ちた。
「不知火…、これで俺とお前は同等だ。心行くまで闘おうぜ!!」
その時の原田さんの目は、
獲物を見つけた獣のようだった。 二人は互角に闘っている。いや、原田さんの方が
優勢に見えた。
「くそ…、原田よぉ、
外の奴らが来やがったから、
勝負は次にしねぇか?」
不知火さんが、不服そうに
拳銃をしまいながら言う。
「それもそうだなぁ…。
次は必ずおれが勝ってやる。」
「へっ、やってみやがれ!」
そういうと、不知火さんは
何処かへ消えた…
私は終わったかと思うと、
その場にヘナヘナと座り込んだ。
「…大丈夫か?」
原田さんは私と同じ視点で
話してくれる。
「はい…。
どうして、変若水なんか飲んだんですか?」
私は一つの疑問を
原田さんにぶつける。
「お前を守りてぇって思ったんだよ。…男が女を守るのに、
理由なんているのか?」
原田さんは優しく答えてくれる。
「でも…、寿命が短くなるし、発作もでるんですよ?」
「これは確かに変若水だ。
でもな、山南さんが改良を加えた、寿命の短くならない変若水なんだよ。 羅刹になってねぇ幹部はおれだけだから、
実験してほしいって言われて、預かってたんだ。
…まさか、本当に飲んじまう時がくるなんてな。」
ははっ、と原田さんは
笑ってみせる。
寿命が短くならない変若水?
いくらなんでも話がうますぎる。
「副作用とかって、ないんですか?」
「わからねぇんだ…
……………っく、うぅ」
「原田さん!?」
吸血衝動が起きた。
でも、発作が起きるのが早すぎる。
副作用って、これのこと?
「血が…欲しいんですか?」
原田さんは喋ることも
ままならないまま、
苦しそうに呻いていた。
「く…、あぁ、血が…」
私は小太刀を手に取り、
自分の腕を傷つけた。
一筋の血が流れる。
原田さんはその血をきれいに
舐めとった。
「…楽になりましたか?」
「あぁ…、すまねぇな、
千鶴」
「いぇ、原田さんのお役にたてるなら、これくらいの事は…」
原田さんは優しく微笑んでくれた。寿命が短くならない変若水。
うまい話だけど、
原田さんが生きていてくれるならそれでいい…
私はそう思っていた…
原田さんが羅刹になって数日。
特に変わらない日々が続いた。
…吸血衝動が起きる回数が
他の羅刹より多いのを除けば。
ある日、隊士の洗濯物を
整理していると、
山南さんに呼び出された。
部屋に行くと、
何故か原田さんも一緒だった。
「単刀直入に言います。
原田君は、雪村千鶴君の血を一定量飲まなければ
灰となって消えるでしょう。」
突然の言葉に
私は自分の耳を疑った。
「一定量って
どのくらい飲めばいいんだ?」
原田さんが険しい顔で尋ねる。
「わかりません。
腕などの少量の血では
足りなくなるでしょう。
…首の下辺り、
鎖骨あたりの血がないと
昼起きることが辛くなり、
吸血衝動の回数が
著しく増加してしまいます。」
山南さんが比較的穏やかな
口調で話す。
「じゃぁ、一定量の血を
原田さんが飲めば、
灰にならずにすむんですよね?」
「えぇ、私の見解が正しければそうなります。
…しかし、寿命が尽きるまで
血を与え続けることになりますよ?」
山南さんの言葉が
重くのしかかる。
原田さんには死んで欲しくないけど、一生血を捧げ続けるなんて…
「このことはお二人で
ゆっくりと話し合ってください。…決して口外しないようにお願いします。」
そういうと、山南さんは部屋を出て行ってしまった…
重い沈黙が部屋を支配する。
その沈黙を破ったのは
原田さんだった。
「お前はどうしてぇんだ?」
突然の問いに
少しびっくりする。
「俺が羅刹として生きるためには、お前の血が一生いることになる。…お前はそれでいいのか?」
「私は原田さんが生きてくださるなら、この血を捧げます。
私の血を使って下さい。
原田さんが生きる為に」
「俺はそういうことを
言ってんじゃねぇよ。
俺はお前と一生を共にする覚悟ができてるぜ。
お前の気持ちはどうなんだ?」
「え…?
どういう意味ですか?」
「はぁ……
お前はまだ気付かねぇのか?
俺はお前に惚れてんだよ。
一生ついてきて欲しいって
思うくらいにな。」
びっくりした。
私と原田さんが同じ気持ちだったなんて…
「本当に…
私なんかでいいんですか?
私は鬼なのに…」
「鬼だがなんだがしらねぇが、俺にとってはただの女だ。」
「…そうですか。
私も、原田さんと同じ気持ちです。貴方に一生ついていきたい…」
「…そうか。
…………ぐっ、うぅっ」
吸血衝動だった。
「原田さん!?」
私は小太刀を握り、
左の鎖骨あたりに
傷をつけた。
腕に傷をつけた時より
多くの血が流れる。
そして、
原田さんは傷口に
自分の口を近づけた…
「ん…」
原田さんは傷口の血を
丁寧に舐めとっていく。
私は恥ずかしさで、
顔が真っ赤になっていた。
「痛くねぇか?」
「はい… 大丈夫です」
「…すまねぇな。」
そう言って原田さんは立ち上がった。
「なにかあったら俺の部屋にこいよ。
…お前を守ることなら
いつでもできるからな。」
そういって
原田さんは出て行った。
「私も部屋に戻ろっか…」
そういって
私は自分の部屋に戻った…
それから私と原田さんは
新選組を出て行き、海を渡った。
理由は二人で戦乱のない場所に
行くため。
平和で幸せな家庭を築くためだった。
…もう一つ、新選組の皆には
知らせていない理由がある。
原田さんの吸血衝動を少しでも
和らげるため。
自然の多い安定した土地は
吸血衝動を和らげることができると山南さんが言っていた。
「千鶴」
一人で海を眺めていたら
大好きな人の声が聞こえた。
「左之助さん!」
私はおもむろに立ち上がろうとする。
でも、左之助さんは立ち上がることを許してくれない。
「腹に赤ん坊がいるんだ。
無理に動こうとすんなよ。」
左之助さんは優しく微笑みかけてくれる。
「はい…
すみません、左之助さんを
見ると、駆け出したくなっちゃって…」
私は少し大きくなったお腹を
さすりながらいう。
「早く会いてぇな…
俺たちの赤ん坊。」
そういうと、
左之助さんは私のお腹に耳を当てる。
「もうじき生まれますよ。」
「あぁ。
…俺が守ってやる。
お前のことも、
生まれてくる赤ん坊のことも…」
「はい…
信じています。」
私は迷いの無い目でそう言った。
鬼と羅刹の間の子…
きっとこれから先、
様々な困難にあうだろう。
でも、左之助さんはきっと
不知火さんが原田さんの額に拳銃をつきつける。
「…っ、辞世の句だぁ…?
俺はまだ、そんなもんを
詠むつもりはねぇんだがよぉ…」
原田さんは笑っていた。
拳銃を額につきつけられているのに、笑っていた。
「原田…さん?」
私は恐る恐る彼の名を呼んだ。
「千鶴…、俺の後ろにいろよ。」
原田さんはそういうと、
小さい瓶を手にした。
…変若水だった。
「…へっ、こんな女鬼の為に羅刹になっちまうなんてな…」
不知火さんは少し驚いた表情をしていた。
原田さんがその小瓶を一気に飲み干すと、みるみるうちに髪は
白くなり、束ねていた髪紐が
床に落ちた。
「不知火…、これで俺とお前は同等だ。心行くまで闘おうぜ!!」
その時の原田さんの目は、
獲物を見つけた獣のようだった。 二人は互角に闘っている。いや、原田さんの方が
優勢に見えた。
「くそ…、原田よぉ、
外の奴らが来やがったから、
勝負は次にしねぇか?」
不知火さんが、不服そうに
拳銃をしまいながら言う。
「それもそうだなぁ…。
次は必ずおれが勝ってやる。」
「へっ、やってみやがれ!」
そういうと、不知火さんは
何処かへ消えた…
私は終わったかと思うと、
その場にヘナヘナと座り込んだ。
「…大丈夫か?」
原田さんは私と同じ視点で
話してくれる。
「はい…。
どうして、変若水なんか飲んだんですか?」
私は一つの疑問を
原田さんにぶつける。
「お前を守りてぇって思ったんだよ。…男が女を守るのに、
理由なんているのか?」
原田さんは優しく答えてくれる。
「でも…、寿命が短くなるし、発作もでるんですよ?」
「これは確かに変若水だ。
でもな、山南さんが改良を加えた、寿命の短くならない変若水なんだよ。 羅刹になってねぇ幹部はおれだけだから、
実験してほしいって言われて、預かってたんだ。
…まさか、本当に飲んじまう時がくるなんてな。」
ははっ、と原田さんは
笑ってみせる。
寿命が短くならない変若水?
いくらなんでも話がうますぎる。
「副作用とかって、ないんですか?」
「わからねぇんだ…
……………っく、うぅ」
「原田さん!?」
吸血衝動が起きた。
でも、発作が起きるのが早すぎる。
副作用って、これのこと?
「血が…欲しいんですか?」
原田さんは喋ることも
ままならないまま、
苦しそうに呻いていた。
「く…、あぁ、血が…」
私は小太刀を手に取り、
自分の腕を傷つけた。
一筋の血が流れる。
原田さんはその血をきれいに
舐めとった。
「…楽になりましたか?」
「あぁ…、すまねぇな、
千鶴」
「いぇ、原田さんのお役にたてるなら、これくらいの事は…」
原田さんは優しく微笑んでくれた。寿命が短くならない変若水。
うまい話だけど、
原田さんが生きていてくれるならそれでいい…
私はそう思っていた…
原田さんが羅刹になって数日。
特に変わらない日々が続いた。
…吸血衝動が起きる回数が
他の羅刹より多いのを除けば。
ある日、隊士の洗濯物を
整理していると、
山南さんに呼び出された。
部屋に行くと、
何故か原田さんも一緒だった。
「単刀直入に言います。
原田君は、雪村千鶴君の血を一定量飲まなければ
灰となって消えるでしょう。」
突然の言葉に
私は自分の耳を疑った。
「一定量って
どのくらい飲めばいいんだ?」
原田さんが険しい顔で尋ねる。
「わかりません。
腕などの少量の血では
足りなくなるでしょう。
…首の下辺り、
鎖骨あたりの血がないと
昼起きることが辛くなり、
吸血衝動の回数が
著しく増加してしまいます。」
山南さんが比較的穏やかな
口調で話す。
「じゃぁ、一定量の血を
原田さんが飲めば、
灰にならずにすむんですよね?」
「えぇ、私の見解が正しければそうなります。
…しかし、寿命が尽きるまで
血を与え続けることになりますよ?」
山南さんの言葉が
重くのしかかる。
原田さんには死んで欲しくないけど、一生血を捧げ続けるなんて…
「このことはお二人で
ゆっくりと話し合ってください。…決して口外しないようにお願いします。」
そういうと、山南さんは部屋を出て行ってしまった…
重い沈黙が部屋を支配する。
その沈黙を破ったのは
原田さんだった。
「お前はどうしてぇんだ?」
突然の問いに
少しびっくりする。
「俺が羅刹として生きるためには、お前の血が一生いることになる。…お前はそれでいいのか?」
「私は原田さんが生きてくださるなら、この血を捧げます。
私の血を使って下さい。
原田さんが生きる為に」
「俺はそういうことを
言ってんじゃねぇよ。
俺はお前と一生を共にする覚悟ができてるぜ。
お前の気持ちはどうなんだ?」
「え…?
どういう意味ですか?」
「はぁ……
お前はまだ気付かねぇのか?
俺はお前に惚れてんだよ。
一生ついてきて欲しいって
思うくらいにな。」
びっくりした。
私と原田さんが同じ気持ちだったなんて…
「本当に…
私なんかでいいんですか?
私は鬼なのに…」
「鬼だがなんだがしらねぇが、俺にとってはただの女だ。」
「…そうですか。
私も、原田さんと同じ気持ちです。貴方に一生ついていきたい…」
「…そうか。
…………ぐっ、うぅっ」
吸血衝動だった。
「原田さん!?」
私は小太刀を握り、
左の鎖骨あたりに
傷をつけた。
腕に傷をつけた時より
多くの血が流れる。
そして、
原田さんは傷口に
自分の口を近づけた…
「ん…」
原田さんは傷口の血を
丁寧に舐めとっていく。
私は恥ずかしさで、
顔が真っ赤になっていた。
「痛くねぇか?」
「はい… 大丈夫です」
「…すまねぇな。」
そう言って原田さんは立ち上がった。
「なにかあったら俺の部屋にこいよ。
…お前を守ることなら
いつでもできるからな。」
そういって
原田さんは出て行った。
「私も部屋に戻ろっか…」
そういって
私は自分の部屋に戻った…
それから私と原田さんは
新選組を出て行き、海を渡った。
理由は二人で戦乱のない場所に
行くため。
平和で幸せな家庭を築くためだった。
…もう一つ、新選組の皆には
知らせていない理由がある。
原田さんの吸血衝動を少しでも
和らげるため。
自然の多い安定した土地は
吸血衝動を和らげることができると山南さんが言っていた。
「千鶴」
一人で海を眺めていたら
大好きな人の声が聞こえた。
「左之助さん!」
私はおもむろに立ち上がろうとする。
でも、左之助さんは立ち上がることを許してくれない。
「腹に赤ん坊がいるんだ。
無理に動こうとすんなよ。」
左之助さんは優しく微笑みかけてくれる。
「はい…
すみません、左之助さんを
見ると、駆け出したくなっちゃって…」
私は少し大きくなったお腹を
さすりながらいう。
「早く会いてぇな…
俺たちの赤ん坊。」
そういうと、
左之助さんは私のお腹に耳を当てる。
「もうじき生まれますよ。」
「あぁ。
…俺が守ってやる。
お前のことも、
生まれてくる赤ん坊のことも…」
「はい…
信じています。」
私は迷いの無い目でそう言った。
鬼と羅刹の間の子…
きっとこれから先、
様々な困難にあうだろう。
でも、左之助さんはきっと
作品名:原田羅刹化 作家名:獄寺百花@ついったん