二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

アイツに関しての傾向と対策

INDEX|1ページ/1ページ|

 


 自動販売機。俺はコーラを買って、光子郎は烏龍茶を選んだ。そして塗装の剥げかけたベンチに通学カバンを置き、腰を下ろす。それぞれで買った飲み物を一口飲んだらまるで何かの続きのように会話が始まった。
「ヤマトさん、僕、太一さんが好きです」
「なんで俺に言うんだよ。太一に言えよ」
「そんな簡単に言えるわけないじゃないですか」
 光子郎がろくに表情も変えずに言ったその言葉で、ことの重大さがうっすらと眼前に浮かんできた。どうやら俺はこいつが言う「好き」を誤解していたらしい。
「マジかよ」
「マジです」
 そんな真顔で肯定されても。
「まあ、そういう反応ですよね、普通」
 隠し切れなかった動揺を捕らえて光子郎が諦めたような声を出す。俺はバツの悪い思いをする。引きましたか? という問いに引けるか今更、と咄嗟に返して、自分でも意味がわからないと思った。それでも光子郎は「ありがとうございます」と少し笑った。こいつは今の俺の言葉をどう解釈したんだろう。
「流石は友情の紋章」
「本格的に意味わかんねーよ」
 というか俺とこいつは友達なんだろうか。まあいいか友達でも。学校帰りにたまたま会って、ごく自然に一緒に帰ろうかって流れになったら、それは友達と言っていい間柄だろう。そのうえ寄り道して公園でジュースなんか飲んでりゃ尚更だ。
 同性が好きだなどという告白は今まで誰からもされたことがないし動揺しているのは確かだが、俺はどこかで納得もしている。八神太一はどんな形であれ俺たちにとって「特別」だ。そしてそれを差し引いたって、あの冒険とその後のことを思い返して見れば、光子郎の態度に思い当たる節は幾つもある。
「ヤマトさん、僕は貴方が羨ましいです」
「…………」
「ずっと羨ましかったんですよ。ずっと」
 同じ歳であることとか、隣に並んで戦ったあの時とか、或いは取っ組み合って喧嘩したこと。こいつはそれらを指摘したいのだろうか。
「…なぁ光子郎」
 口を挟ませたのは違和感。でも、きっと軽率だった。
「お前が望んでるのは俺のポジションなのか?」
 横顔で俺の言葉を受けた光子郎が口元を引き締めたのを見た。傷つけてしまっただろうか。
 でも、そうだろう? 太一にとっての俺になりたいっていうのなら、その「好き」は違うだろう?
「…すみません」
 逸らした目を戻したら光子郎は笑っていた。どう見ても苦笑いだから、なんで謝るんだよ、と俺からも苦笑いを返した。
「自分がどうしたいのか僕にもよくわからないんです。だからとりあえず牽制しておこうと思っただけなんですけど…まさかそんなふうに切り返されるとは…」
「牽制?」
 なんだそれは。もしかして俺が太一をどうにかするとでも思ってるのかこいつ。
「いやそういうわけでは」
 心が読めるのかこいつ。
「まあいいや。教えてやるよ。俺は空のことが好きだからどう間違っても太一には手を出さん」
「…そうですか」
 いつでも冷静な年下のこの少年は俺の突然の暴露に対しても冷静だった。そりゃ確かにあえてさらっと言ってみたけど、そんなに反応が薄いんじゃ逆に拍子抜けだ!
「驚かねーの?」
「驚いています」
「……そうか」
 本人が驚いてるっていうなら仕方がない。納得しておこう。
 学校のチャイムが遠くに聞こえた。遊具で遊んでいた小さな子供たちがそれを合図に公園から走って出ていった。解放されたブランコが揺れている。ベンチに二人取り残された俺たちは、外からだとどういうふうに見えるのだろう。ちゃんと友達同士に見えるのだろうか。実際はなんか変なコイバナしてる先輩後輩なんだけど。
「ヤマトさん」
 呼ばれて振り返ってみると光子郎はなにやら頼もしい表情で背筋を伸ばした。
「ひょっとして、僕たちの利害は一致しているのではないでしょうか」
「利害? 何の話だよ」
「僕は太一さんと空さんがくっつくことを一番危惧しています」
 その言葉を聞いてまず俺が考えたことは「くっつくなんてこいつにしちゃあやけに俗っぽい言葉使うな…明らかに浮いてるぜ、そこだけ」ということだったが、その次の瞬間には、こいつの言いたいことをちゃんと汲んでやることができた。
「なるほど、確かにそれは俺にとっても最大の脅威だ」
 俺たちはどちらからともなくニヤリと嫌な感じの笑みを交わして、その瞬間、ひとつの同盟が結成されることとなった。恋というものは一人でするものだとばかり思っていたけど、味方ができるのは嬉しいことだ。それがこいつだというのは頼もしい感じもする。
「じゃあ頑張ってください」
「おい、なんで俺任せなんだ。お前も頑張れよ」
 考えてみればこれも結構無責任な台詞だったが、光子郎はちょっと笑って頷いた。それを見たら唐突に使命感が湧いてきた。きっと諦めのように見えてしまったからだ。
「ちょっと待ってろ、今俺は、お前に言うべきことを考えてる」
「言うべきこと…?」
「そうだな……なんていうか、その、攻略法?…傾向や対策?」
「なんですかそれ」
「お前の友人として、そして太一の友人として、俺がお前に言えることだよ」
 はぁ、と曖昧に下がった語尾を聞き流し、閃いた考えに思わず手を打った。
「わかりやすい愛情表現!」
「………………」
「あいつニブいから、アピールしとかないと絶対気づかないって」
 使命を全うした気分で俺はベンチから立ち上がり、とっくに飲み終わっていたコーラの缶をゴミ箱に向けて放り投げた。
「………善処します」
 光子郎は苦笑いですらない複雑な声で呟いた。俯いた姿勢が表情を隠しているけれど、なんだか赤面している気配。…やべ、いまちょっと、こいつ可愛いなとか思っちまった。やっべー。
 俺の内心の動揺を知らない光子郎はやや間を置いてから立ち上がって烏龍茶を飲み干して、普段の顔で俺を見据えて、
「でもヤマトさんに言われたくありません」
 と言い切った。言い切りやがった。
「…可愛くねーなぁお前…」
 俺が投げた空き缶はゴミ箱に当たりもせず、地面に転がっていた。