Morning After
当たり前だが、むかむかして、身体中があわ立つみたいにざわついている。
眠りに就きたいのに、眠られない。気持ち悪い。吐きたいけれど、吐いてはだめだ。薬が流れてしまうから。
目が覚めて、やはりまだ身体がだるいと感じる。
誘いに乗るべきではなかったのかもしれない。が、見知らぬ土地でふと何かの縁が出来るのは嫌いじゃない。それに、互いにこの土地に明るいわけでもなく、ホテル代を折半するためにベッドをシェアしたわけで、割りと正当な理由だと思う。
「起きたのか」
「……ああ、なんだ、まだいたのか」
赤い髪の男が、どうせヒマなんだ、とミネラルウォーターのペットボトルを寄越しながら言った。確かにまったく仕事の匂いをさせない、ラフな格好だ。昨晩、飲んでる途中も結局、職業は明かさなかったなとぼんやり記憶を反芻する。
「お前さん、いつもそんなの飲んでんのか？」
「そんなの？ ああ、ピル？」
「しかもアフターのだろ？」
「詳しいな、オッサン。あんまり女の子泣かせんなぁ？」
「孕んだら孕んだ時だな」
「そういうこと言う奴がいるからこんなんになんないといけねーんだよ。中に出しやがって。なんのためのゴムだよ」
「破れてたかもしれないだろ、問題は結果だ、結果」
「そうだな、結果だよ。だから飲むんだ」
この男はゲイリーと名乗っていて、女の扱いの上手そうな男だ。ワイルドで、ちょっと遊ばれてみたい、そんな雰囲気。別に俺がそうってワケではもちろんない。セックスの上手い男は好きだけど、遊ばれて捨てられて泣いてなんて面倒な工程は全く必要ない。
「しっかしお前さんは物好きだな。普段から飲んでればこんなに辛くもないだろ」
「そうそう頻繁に誰かと寝るわけでもないからな」
「なんだ、男慣れしてると思ったらそうでもないワケか」
「アバズレって程じゃねーよ。まあ、感度が減退するらしいから飲まないってトコはそのケあるかもしれないけど」
床に放られたカバンを引き寄せ、ピルケースを取り出す。一回目の服用から十二時間後に二度目を飲まないと効果がないからだ。
「そういうお嬢さんには俺の子ってーのを産んで欲しいもんだ」
「お断りだね。アンタ、相当なワルみたいだし」
スーツをきっちり着込んでいるときは分からないが、タトゥーの入った身体を見れば分かる。使うために鍛えられた身体に、たくさんの傷跡。乱暴に触れてくるソレが悪いとは言わないが、長く付き合うには不向きな男だ。絶対。
「孕めば良かったのに」
「ホント、わっりー男だな、オッサン」
この男、マジ最悪……とは思ったが、まあ悪い男に引っかかるのはいつものことだ。身一つのうちはこんなのたいしたことも無い。
二回目の薬の嘔吐感で、ベッドの中に意識が引き戻る。
いつかこんな無茶してる中でも俺に子どもが出来たなら、きっとそれが運命だって信じてるなんて、そんな馬鹿みたいなことを考えながら、ゲイリーが扉をしめる音を聞いた気がする。
2009.4.1
作品名：Morning After 作家名：ながさせつや