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フレンドボーイ42
フレンドボーイ42
novelistID. 608
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【完全読み切り】踊

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火吹き野郎。サーカスなんかでも活躍できるが、大体は趣味の芸当の世界である。アキトは自分のポケモン・ブーバーと火を吹いていた。失敗すると唇をやけどするため、慎重に行う必要がある。自分のポケモンが簡単に火炎放射を出来るのがうらやましい。気楽に行える趣味ではない。
 彼はとりあえず旅を続けることにした。今は3番道路に来ている。とても高台の場所にある。まあ当然か。ここはお月見山のふもとなのだから。
 お月見山、それはピッピが満月の夜に踊るという山。広場にピッピ達が踊る決まり場所があるのだ。彼は今日、それを見に来た。ばれると逃げられるらしいので、隠れる必要がある。お月見山のピッピを見たという報告はジョウト地方からやってきたトレーナーがポケギア付属カメラで撮影するまでは伝承と思われていた。そのトレーナーに時間帯と場所を聞いてやってきた。広場にはお土産屋さんがあるので、そこでまんじゅうを買って腹ごしらえとした。甘いものは苦手であったが仕方がない。
 ピッピはまず会うだけでも珍しいのだ。彼は静かなビデオカメラを用意して、静かにその時を待った。
 
 やがて、徐々に何やらピンク色の妖精のようなポケモンが現れるのを見かけた。ピッピだ。そして静かに歌いだし、踊り出す。誰がどう、といった指示もなく、丸でそうときまっていたかのように。
 ピッピが踊る様子を見て、彼はすぐに心を奪われた。彼は近づきたい衝動に駆られたが、そうすると見られなくなってしまうかもしれない。彼はじっと待った。やがてピッピは気づいたのか気づいていないのか、何処かへと去っていった。
 そこに残されたのは月の石、そしてアキトだった。彼は、もう一度一目見んと思った。またここに来よう、と。

 しかしそれには時間が必要だった。彼の故郷のグレンタウンの再興のための資金を稼ぐために、火吹きのチャリティ全国ツアーに参加することになったからだ。彼の中でもんもんという気持ちが流れるが、故郷を思う心だけは持っている彼は、どうしても復活させたかった。ビデオを仲間たちとみて、そのたびに思うのだった。
 ある日、グレンタウン復興委員長兼グレンタウンジムリーダー、カツラに呼び出された。
 「君はピッピが踊る様子を撮影したビデオを持っている、と聞いたが、それは次どこで見られるかを知っているのか?」
 「はい」
 「なるほど」
 「どうしてそれを」
 「次の回にワシも連れて行ってほしいのじゃ」

 彼とともに、また明人は例の場所につき、そして待ち構える。こんどもピッピ達は現れる。憧れの意識が薄まるどころかさらに高まる、そんな神秘的な踊り。それを見終わり、ピッピ達が帰路に着くと、カツラは静かに語り始めた。
 「君は…ピッピが流れ星の化身であるという噂を聞いたことがあるか?」
 「いえ…でもなぜそんなことを」
 「どうしても難航する復興事業」
 「はい」
 「しかしわしら住民はどうしてもそれを復興させたい。それにはパワーがあると確信している。しかしそれに向かうのに、どうしてもやらなければならん課題が山積みじゃ」
 「はい」
 「困った時は…少し、わずかばかりの一縷の希望にも託してみたいのじゃ」
 アキトは少し恥入った。故郷を愛する心より、自分の単なるよくが先に行ってしまった自分。自分よりはるか上の、本来なら休んでもいいような老人がいろいろなところを奔走している現実。
 
 (俺も頑張らなくちゃ、な。いつまでもこんな流浪の生活はつづけてらんねえや)
 彼は決意を新たに、カツラ老人と二人、夜明けを迎えるのだ。