蜜月
何をするでもなく過ごしていた正臣の背に、突然何かが寄りかかってきた。
「沙樹」
「驚いた?」
くすくす笑いながら、正臣の背に寄り掛かってきた少女は問いかけた。
一緒に住んでいる恋人は、突然こういったスキンシップを取って来ることがある。
沙樹も本当に驚いたかどうかは気にしていない。
ただ、自分のことを受け止めてくれる存在がいることを確認しているのだ。
「いーや、沙樹が近づいてくる気配があったから、全然驚かなかった」
「嘘だぁ」
「ほんとほんと。マジで。絶対。だって沙樹と俺の仲だし」
そう言って、正臣は沙樹の頬に唇を寄せる。
軽く触れ合う音と、沙樹がくすくすと嬉しそうに笑う声が部屋に満ちる。
「正臣、キス好きだね」
「そりゃー男だからな。もちろん、キス以上のことも好きだけど?」
「知ってる」
そして今度は沙樹が正臣の唇に触れた。
軽く重ねるだけのキスに薄く頬を染めながら、沙樹は正臣に笑顔を向ける。
先週も先々週もその前も、同じように二人の時間は流れていた。
今日も同じ流れで一日を終える。
日常となった流れの中で、二人は幸福という言葉を思い浮かべた。