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羽島先生と平和島君

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「平和島、静雄、くん」
 兄さんは、おう、なんて、ぶっきらぼうな返事をする。おれは手にしていた名簿を机の上に置いて、首を振る。
「ダメだよ兄さん。おれは教師で、兄さんが生徒。練習にならないでしょう」
 兄さんには、実家から持ってきた以前の学生服を着てもらった。体つきは大して変わっていない筈だけれども流石に卒業して数年経った今になっては、流石に違和感があった。それでも、兄さんが高校生時代はこんな様子だったのかな、とおかしかった。小さな勉強机が部屋の中に並んでいる。その窓辺の一番後ろの席。ぱたぱたと埃のにおいのするカーテンがはためいている。黒板のにおいもそう。学校の、独特なにおいがする。
 今度の仕事は、学園ドラマだ。来良学園に事情を話して、見学をさせてもらうことになった。ロケも一部はここで行われるらしい。おれは来良の卒業生じゃなかったけれど、こころよく了承してくれた。昔からいる教師には、おれが連れてきた、兄さんの姿には驚いていたようだけれども。兄さんも居心地が悪そうに、頭を下げていた。
「つかよう、学生の頃のことなんて、昔過ぎて忘れちまってるんだよ」
「思い出して、よ」
 おれは、役になりきって、溜息を吐く。
「てかよ、学生時代っつーとノミ蟲のことばっかりだったしよ……ああ、思い出したら腹立って来やがった」
「そっちは思い出さなくていいから」
 教師になって三年目の教師が、問題児ばかりの高校に赴任することがはじまる。ただ、おれは熱血教師ではなく、ドラマもただの学園モノでもない。どちらかといえば、ミステリー? 
 慣れない眼鏡の位置を直す仕種がまだぎこちない気がする。出席簿とペンを手にしなおす。
「授業中は、どうだった?」
「思い出せねえよ」
「さぼってばっかりいたんじゃない」
「……そうかもしんねえ」
 兄さんと言えば、更にぎこちなく机に座っている。どうみたって机も椅子も小さい。暴力にまみれた学園生活の片隅に、こんな時間があったのかなって思うと、なんだか微笑ましい。口元が歪みそうになるのを元に戻して、咳払いをひとつする。
「平和島静雄くん」
「うん……」
「まっすぐ前を向いて、大きな声で返事をして下さい」
 うう、と兄さんはもぞもぞと歯痒そうに口元を動かす。
 ぱたぱたと、夕日に染まったカーテンがはためく。兄さんは、さしこんできた西日に目を細める。一度、机の上に目を落とし、それから、やけになったように、大きな声で返事をした。
「はいっ」
 こみあげてきた笑いをこらえる。出席簿に視線をもどす。ペンでチェックするフリをした。
「よくできました、平和島くん」
作品名:羽島先生と平和島君 作家名:松**