髭を剃る臨也と誘う静雄(臨静)
髭を剃る。
じょり、じょりりと。
音を立てて。
排水溝に流れていく白い泡と、黒い微かの粒は、そのまま彼の欠片。
洗面所で鏡に向かう臨也の後姿を、静雄は戸口にもたれかかって見ている。
この後姿を見るのは、今日で何度目だろうかと思いながら。
臨也は。
その見かけからは勘違いしやすいが、意外と体毛が濃い。
あぁして鏡に向かうのが、日に三度であることを、静雄は知っていた。
そしてそんなことを知っている自分に、内心で苦笑して。
じょりと、また一つ泡が排水溝へと消えた。
鏡越しで。
つるりと削がれた臨也の頤を見る。
偽りのそれは、見慣れた男の影。
「臨也」
ゆるりと一歩、彼へと近づいていく。
鏡越しに視線を絡めた。
彼の紅い瞳へと。
「シズちゃん」
振り返る彼のつるりとなった頬へと手を伸ばして、ゆるりと笑んだ。
それは何かを誘う笑みで。
そしてきっと。
「全く。仕方ないね、シズちゃんは」
肩を竦める彼が歪めた口の端も。
同じ意味を持つ笑みだったのだろう。
Fine.
作品名:髭を剃る臨也と誘う静雄(臨静) 作家名:愛早 さくら