二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
轍 きょうこ
轍 きょうこ
novelistID. 1480
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

鋼鉄製パペット

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 




 ジャップ警部が仕事があるからと立ち去った後もヘイスティングスはしばらくその場を動けなかった。
 ポアロは名探偵だ。
 紛れもなく、他に類を見ない、真性の。
 警察が手も足も出ない事件を、まるで未来視の能力でもあるかのようにすべてを見透かし、すべての事実を、何一つ見逃すことなくその手にし、難事件を解決に導く。真犯人を浮き彫りにする。

『ポアロの目は、はなにひとつ見逃しません』


 それは彼がよく口にする言葉だ。
 ほんの些細なミス、ほんの些細なズレから犯人を引きずりだす時、それを覚えていることに驚く面々に向かって。
 でも、それは。
 何一つ、見逃せない、と。そういうことじゃないのか。
 見たくない事実。
 知りたくない真実。
 目を瞑っていても問題のない、ありとあらゆることを。否応なしに。
 今までヘイスティングスはそんなこと気付きもしなかったけど。
 もしかしたら。

 胸に湧く苦い思いごと、ヘイスティングスはすっかり冷めてしまった紅茶を流し込み、席を立った。


「おかえりなさい。ヘイスティングスさん」
「ただいま、ミス・レモン」
「どうしましたの? 顔色があんまり良くありませんけど」
 結局、胸を塞ぐ思いを振り払うことは出来なかった。
「いえ、別になんでも…」
「そうですか? それならいいですけど。ポアロさんがお待ちかねですよ」
 ヘイスティングスの様子には気付かないのか、ミス・レモンは遠足を心待ちにする子どもを見るように微苦笑してポアロがいる部屋の方を見ていた。
「? どうしたんです?」
「おや、ヘイスティングス! お帰りなさい。待ってましたよ」
「どうしたんです?」
 ヘイスティングスはちょっとびっくりしてポアロを見た。彼が出かけたときと全然様子が違っている。
 困惑してミス・レモンを振り返った。
「簡単なことですわ。依頼があったんですのよ、ヘイスティングス大尉」
 その言葉にヘイスティングスはお起きに納得し、そして何故か―――もうその答えは分かっているけれど―――嬉しいはずの展開に、さらなる閉塞感が襲ってくるのを如実に感じた。
「まったく今朝からずっと探偵を辞める辞めるとおっしゃっていたのに…。まあこうして依頼が来てくれてよかったですけれど」
 楽しそうなポアロの後ろ姿を見つめ、ミス・レモンがヘイスティングスを振り返る。
「ね? ヘイスティングス大尉」
 ヘイスティングスは、それに頷くことが出来なかった。

(…ああ)
 まるで、彼が逃れようとするのを待っていたかのように、事件がポアロを呼ぶ。
(ああ)

 ポアロは探偵なのだ。永遠に。

 神様の糸からは逃げられない。

作品名:鋼鉄製パペット 作家名:轍 きょうこ