二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

どうやら、君には依存性があるらしい

INDEX|1ページ/1ページ|

 
人や自動販売機が宙を舞い、道路標識が空を切る。それはこの池袋という街においては今更の日常風景だ。だが今日はその一見非常識な日常が頻発していた。街のあちこちに哀れな自動販売機や道路標識が転がり、コンクリートの地面や壁が抉れ、それらの被害者達のうめき声の合唱が響き、一方野次馬の喧噪も今日はいつもより潜められている。
 原因は言うまでもない。というよりそんなこと光景を作り出すことが出来るのはただ一人、平和島静雄である。
 もともとこの街では静雄の手によるそれらが日常風景として毎日のように繰り返されてはいるのだが、今日はいつにもまして酷かった。しかもその嵐は未だなお収まる気配を見せず、さらに徐々に悪化をしているようにも見える。おかげで静雄の暴れぶりを見慣れている池袋の住人達ですら、今日はいつもよりも遠巻きにあるいはその場を足早で離れようとしていた。一体誰が恐ろしく機嫌の悪い喧嘩人形の近くにいたいと思うか。最大の対処法である近づかない、関わらない、逃げることという鉄則をみな改めて実感している。
 だが、あいにく一人だけその場から逃亡するわけには行かない人物がいた。静雄の上司で相棒の田中トムである。
 基本的にトムは静雄が暴れている間はその場から安全圏まで避難してはいるが、完全に離れるわけにはいかない。だから静雄がある程度暴れて落ち着いた頃を見計らって声をかけ、次の場所へと移動を繰り返していた。結果、被害地域の拡大と犠牲者の量産が続けられたわけである。
 しかしさすがにこれ以上は無理だと判断して、トムは一つ大きな溜息をついた。ある程度のものは示威行為として有効だが、これではただ暴れているだけで仕事にならない。仕方なくまた静雄が落ち着くのを待って、それから声をかけた。
「静雄、お前今日はもう上がれ」
「は?」
 向けられた声も顔も完全にメンチを切っているといえる凶悪なものだが、それでもトムは変わらない調子で再度上がるように言った。
「まだ今日の分は終わってねえでしょう」
「この調子じゃ仕事が終わるまでに街の自販機と標識が消えちまうよ。いいから、上がって来良に行ってこい。今からなら丁度いいだろ」
「でも」
「上司命令だ。明日までにもうちっと何とかしてこい。いいな?」
「……ウス。すんません。お先に失礼します」
 迷っていたが、本心では行きたかったのだろう。申し訳なさそうに頭を下げたが、その後は競歩のような勢いで去っていく静雄にやれやれとトムはまた溜息をついた。
 静雄がなぜこれほど機嫌が悪かったのか、トムはよく知っていた。
 付き合っている彼女とここ2週間ほど会えていないのだ。先週は仕事が忙しくて。今週は彼女が試験期間とやらで。おかげで静雄のフラストレーションは溜まりっぱなしで、今日とうとうそのピークを迎え見事爆発したというわけだ。
 何せ静雄は8歳も年下の彼女にベタ惚れだ。電話やメールはしているのだろうが、直接会うのには到底敵わない。それでも基本は真面目だから、仕事をサボることも彼女の迷惑になることも出来ず、こうしてストレスをため込んでいたのである。
 いうなれば彼女ー―竜ヶ峰帝人欠乏症、といったところだろうか。ならば特効薬である彼女自身を投与するのが静雄にもトムにもこの街のためにも最善だろう。そういうわけで静雄を送り出した後トムは携帯で会社に報告をして仕事を再開した。



 来良学園が近づくと下校してくる生徒がちらほら見えた。いつもならまだいるはずだが、自然と気が急いて足が速くなる。
 校門の前に到着すると、丁度よく玄関から出てくる帝人が見えた。横にはいつもいる友人達がいる。そのまま校門を抜け、静雄に気づいて笑顔になった帝人を無言で抱え上げてすぐに踵を返した。向かうは静雄の自宅だ。
「え、静雄さん!?ご、ごめんね、また明日!」
 何も言わず返事もしない静雄に帝人は諦めたのか、一緒に歩いていた二人になんとかそれだけを言って連れて行かれた。下校中の生徒達やそれ以外の通行人達が何事だと注目し、また平和島静雄を知るものは喧嘩人形が女子高生を浚っている、とひそひそ囁いている。だが静雄の方にそれらは全く耳に入っておらず、それどころか通行人すら視界に入っているのか怪しい調子でまっすぐ堂々としかし凄まじい速さで歩いていた。一方抱き上げられていた帝人にはしっかりと周囲の視線も囁き声も耳に入っており、かなり恥ずかしい。せめてもと顔を静雄の頭に埋めてそれらの視線と声をシャットアウトしようとしていた。
 ようやっと自宅についた静雄はベッドに帝人を下ろし、何も言わずただその体を抱きしめた。
「静雄さん?」
 問いかけるように帝人が声をかけたが静雄は返事もせずに抱きしめ続ける。帝人はそれ以上は聞くことはせずしばらくただじっとしていた。
「……帝人」
「はい」
「帝人」
「はい」
「帝人」
「はい。静雄さん」
 静雄が呼べば、帝人は必ず返事をする。求めていた体温と声に、ささくれ立っていた感情が収まっていく。だがすぐに先ほどとは別の飢餓感が沸き起こってきた。癒されたはずなのに、その存在によって更に飢えが強くなる。欲しくて、手に入れて、すぐに足りなくなってもっと欲しくなる。終わることのない繰り返し。それはまるで麻薬のようで、依存から抜け出せない。……抜け出す気にも、なれない。
「帝人。……足りないんだ」
 抱きしめる力が強くなり、声が熱で僅かに掠れる。帝人はそれに少し沈黙をし、小さく息を吐いた。呆れでも諦めでもないそれは多分許しなのだろう。
「一応まだ明日まで試験なので、お手柔らかにお願いします」
 そういって静雄の髪を撫でる手も、許してくれる声も、向けられる笑みも、預けられる体も、すべてが静雄にとって極上のクスリだ。



どうやら、君には依存性があるらしい
title by リライト