別離が生んだ強き想い
何でこんなにも昔の事のように感じるんだろう。
何故?
そんなの分かりきってる。
あいつがいないから。
ただ、それだけ。
「おい、螢惑。いい加減その髪どうにかしろ」
でた。説教魔人。
「それしか言う事ないの…?最近会うとそればっか」
「しかたないだろう!お前がそのうっと惜しい髪をどうにかしないから私が会う度に貴様に同じ事を言わねばならんのだ!!」
「…辰伶には関係ないでしょ」
「五耀星たる者、身嗜みにもきちんと気を使え!」
「…自分こそ変な格好してるじゃん」
何でそんなに腕出してるんだろ。吹雪もひしぎも。
オレのいない間に色々あったんだね、きっと。
「!」
バシッ
「なっ!?」
「触るな…」
今、こいつは何に触った?嫌いなヤツに触られるなんて…。
俺の髪に触れていいのはあいつだけ。オレの髪を梳くのも。編むのも…。
そう考えたオレは即座に刃を首元に構え自分の髪を自身から切り離した。
一瞬、凄い痛みが全身に走った。
オレが切り離したのは自分の髪の毛。此れからも伸びてくる、ただの髪。
だけどあいつとの思い出のあるもの。
伸びてくる髪にはそんなものない。
あるのはあいつとの別れ…。
あぁそうか。だからオレは髪を伸ばし続けたんだ。
必死に生きる日々の中、うっとおしい髪を切る余裕もなく生き続けて…。
あいつらと出会って、いい加減に髪切ろうかなとか思ったのに、編んでやるとかあいつが言い出して。
特別。思い出。喜び。他にも、沢山。
それらを切り離してしまったんだ、オレは…。
でも辰伶が触ったモノなんかいらない。
辰伶になんか触れさせない。
だから良いんだ。
「!?」
辰伶が息を飲む気配がした。
「どうかした…?」
「いや…」
無表情な螢惑が流した一筋の涙。
「お前なんか嫌いだよ…」
すれ違い際ほたるは辰伶の耳にそう囁いて去って行った。
「何なんだ!あいつは…」
己の中に沸いた知らぬ感情。
その場に一人残された辰伶はその源が何かも知らぬままほたるに憤りを覚えて叫んだ。
ごめんね。髪切っちゃった。
でも約束は守るから…。
「俺の髪の毛編んで良いのはアキラだけだから…」
離れていても、ずっと好きだよ。
作品名:別離が生んだ強き想い 作家名:ショウ