逆転ホワイトデー
バレンタインを貰った相手にお返しをする日。
(そもそも何をあげればいいんでしょう?バレンタインの定番はチョコですが、ホワイトデーの定番は・・・・飴?でしたっけ・・・)
今日のちょうど一ヶ月前。アキラはほたるから小作りな和菓子を貰っていた。
本人の考えは全く読めなかったが、何かと義理堅いアキラである。
一応お返しだけでもしなければ、と変な使命感に燃えて前日から町を出歩いてお返しの品を捜し求めて歩き回っていた。
まぁ、この辺りで良いかと目に付いたその品を手に取ると店の人に頼んで包装してもらった。
(これでよし、と)
アキラは一月肩に乗っかっていた荷物がこれでようやく下ろせると足取りも軽く旅籠へと戻って行った。
「あれ?アキラ・・・お帰り。どこ行ってたの?」
旅籠の部屋に戻ると珍しくほたるがアキラを出迎えた。
「お出迎え有難うございます。ほたるこそ、梵たちと町へと出向いたのではなかったのですか?」
アキラが旅籠を出る前にほたるは狂と梵天丸と共に町へと遊びに繰り出していた筈だ。
「ん・・・でも、梵がうるさくて。それに梵の言う面白い遊びも俺にはつまんなかったし」
「ほんとに獣ですね」
アキラはほたるをおかしな世界に連れ込もうとした梵天丸を後で夢氷月天でもお見舞いしてやりましょうと心に決めた。
「・・・?ねぇアキラ。その包みなぁに?出かけた時は持ってなかったよね、そんなの」
ほたるはアキラの抱えている小さな包みを訝しそうに見やった。
「あぁこれですか。・・・・はい」
「?」
「先月のお返しです」
「??」
首を傾げていくばかりで何も分かってない様子の相手にさすがにアキラも眉をひそめた。
「・・・本当に分かってないんですか?」
「うん」
「それではお聞きしますが今日は何日ですか?」
「えっとね、・・・」
ほたるはしばらく指折り数えてから3月14日と答えた。
「それでは今日は何の日ですか?何日ではありませんからね、何の日か、ですよ!」
「知らない」
ブチッ
「・・・それでは一月前は何日で何の日だか、分かりますか?」
「知らない」
ほたるは首をふるふる振って答えた。
ブチブチッ
「何の日か知りもしね―くせに俺に品渡すんじゃねー!!」
「なにアキラ一人で勝手にキレてんの…?」
「うっせー!分かってもいねー奴が口出すな!!」
アキラは怒りにまかせて買ってきた小包をほたるに投げ付けた。
「いて」
丁度包みの角が当たった。
ほたるは自分の頭に打つかって畳に転がった小包に一瞥やるとそれを手に取った。
アキラはほたるに背を向け肩を怒らせて知るもんか!という態度で腕を組んで立っている。
後ろでガサガサと紙を丸める音がした。
アキラは訝しく思って後ろを振り向くと、ほたるがアキラの買ってきた小包を開けている所だった。
「おい!?」
カツン
「「あ・・・・」」
小箱から零れ落ちた銀細工が畳に音をたてて落ちた。
「・・・・ピアス?」
ほたるは落ちたチェーンピアスを拾い上げるとアキラを見た。
「これ、俺に・・・?」
「ええ」
アキラはひどく不本意そうにほたるの質問に答えた。
「俺あげたの、和菓子だったでしょ」
「何だ、覚えてるんじゃないですか」
「俺、甘いの嫌い」
「知ってます。・・・だから私に押し付けた、と?」
「うん」
アキラの怒り最熱。口を開いて怒鳴ってやろうかとしたその時、
「だから貰えるなんて思ってなかった・・・ありがと、アキラ」
ほたるが優しく微笑んだ。滅多に見れないほたるの柔らかい表情。
アキラはうっと詰まると、顔を赤らめて
「どういたしまして」
と口にした。
「結局ほたる、何の日か理解してたじゃないですか。何でさっき知らないなんていったんですか?」
「え。う~んとね、どんな日かは一応知ってたんだけど名前知らなかったから・・・」
「だから知らない、ですか(呆)」
「そ」
ほたるはアキラから貰った慣れない造りのシルバーリングをしばらく手で弄ぶと、
「ね、アキラが付けてくれない?」
と言ってきた。
しかもアキラに凭れ掛かって。完全に甘えたモードである。
「私ですか?私じゃもっと分かりませんよ」
「いーよ、別に。血が流れても大して痛くないし。アキラから貰った此れをアキラに付けて欲しいって其れだけだから」
アキラ、顔真っ赤。
「…分かりましたよ。付けて差し上げます。泣きを見ても知りませんからね」
はい、付けましたよと言ったアキラの耳に届いた言葉に次の瞬間彼は固まった。
「・・・どうせだったらアキラの泣き顔みたいな」
「え゛」
ほたるの耳にピアスを付け終えたアキラの運命や如何に!?