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けいおん!! #1.5

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「私、今年まではこの五人だけでやりたくなりました――か。……はぁ」
 まだ誰も来ていない部室で一人ため息をつく。先輩達には、ああ言ったもののやっぱり入部希望者が一人も来ないのは結構つらいものがある。あの変な気ぐるみを着てのビラ配りはあんまり効果ないだろうなとは思ってたけど、まさか新歓ライブの後でも入部希望者が来ないとは思わなかった。私にとっては初めての新歓ライブになったんだけど我ながら上手くできていたと思うし、ライブを見に来ていた新入生の子達も盛り上がってたと思う。……澪先輩だってバッチリだったって褒めてくれた。
 本当に何が良くなかったんだろう。純は、私達五人の結束が固く見えて輪に入っていけなさそうと思われたんだって言ってくれたけど、それなら去年の先輩達四人の新歓ライブだってそうだし、それを見て感動した後すぐ軽音部の部室に行った私は何だったんだろう……。きっと、私みたいな新入生が来てくれると思ったんだけどなぁ。
 って、いけないいけない。このままじゃ、どんどん良くない方向に考えちゃう。そ、そう! 今日のむぎ先輩が持ってきてくれるお菓子は――
「あーずにゃんっ」
「ひゃわっ」
 椅子に座ってた私に、いきなり後ろから唯先輩が覆いかぶさってくる。
「いっ、いつも言ってるじゃないですか! いきなりそんな事するのやめてくださいって!」
「ほほ〜、いきなりじゃなかったら良いのですかなー? あずにゃんは〜」
「そっ、そんな訳――っ!」
 ないって言おうとしたけど、振り向いたら唯先輩の顔が目の前に来て、あまりの驚きに上手く声が出ず口がパクパクする。
「ん〜? 目、赤い? もしかして、あずにゃん泣いてたの?」
 唯先輩が心配そうな顔をして更に顔を近づけて覗き込んでくるのから、できる限り自然に目をそらしてみる。本当に、いつもいつもこの人は私の気も知らないで抱きついてきたり顔を近づけてきたり……、どういうつもりなんだろう。
「泣いてません。あと、近いです」
 そうだ、私も二年生になって後輩ができるようになったんだから、入部希望者が来なかったくらいで泣いてる訳にはいかない。
 ――唯先輩は口を尖らせてるけどちゃんと言うことを聞いてくれて、やっと私の首周りが唯先輩の腕から解放される。あったかい唯先輩が離れて、少し冷たい春の風が私の首を撫でる。……もうちょっと、くっついててくれても良かったかな。
 って、あれ? 入部希望者が来ないなら後輩もできないって事なんじゃ……?
「う……」
「わあああああ! 泣かないであずにゃん!」
 慌ててまた私に覆いかぶさる唯先輩。唯先輩が離れたから泣きそうになってる訳じゃないんだけど。……まあ、いいか。
「それで、どしたの? あずにゃん。何か悩み事?」
「まあ、そんなところです」
 耳元で喋るから、すごくくすぐったいのが悩みです。なんて考えてたら、いきなり私から離れて隣の椅子に座って足を組んで髪をかきあげはじめた。……この人の奇行は今に始まったことじゃないけど本当に不思議な人だ。もっと不思議なのは、何をしても可愛らしく見えることかな。
「どうしたんですか? 唯先輩」
「ふぁさっ、ふぁさっ。唯先輩だって? フフン」
 髪をかきあげる仕草に口で効果音つけるのはこの人ぐらいだろうな。しかもすごい悦に入ってる。
「あの、……唯先輩?」
「あずにゃ、いや梓君! 悩みがあるなら、最・上・級・生・の、唯先輩に相談してみなさい。フフン」
 なんて言おうかな、楽しそうな唯先輩困らせたくないし……。
「えぇと、最近よく眠くなって授業中でも寝るのを我慢するのが大変なんです。それで目も充血しちゃって」
「ふむふむ、それは春眠暁を覚えずだね! あずにゃん! わたしも眠くて眠くて大変なんだよ〜。この前も気付いたら授業終わってて教室に誰もいなかったりさ〜」
 パッと思いついたこと言っちゃったけど、私にしては中々上手く誤魔化せたみたい。フフン。
「で、本当の悩みは何かな? あずにゃん」
 誤魔化せてませんでしたー。唯先輩もちょっと真面目な顔してるし、これは本当のこと言うしかないかな。
「……先輩達が卒業してからの事なんですけど、今回の新歓ライブでも入部希望者が来ないとなると、来年私一人になった軽音部じゃ手の打ちようがないんじゃないかって考えちゃって」
 って、言ってるそばから唯先輩は、潤んで今にも滴がこぼれ落ちそうな琥珀の瞳を隠すためか、まぶたを閉じて――。
「ううう、ごめんね。わたし達が不甲斐ないばっかりに」
「もう……、また」
 こんな風に抱きついてきて。
「いいんですよ、来年になってから考えます」
 また、先送りにさせられて。
 ――本当に困った人。





「なあ、むぎー。まだ部室入らないのかー?」
「もうちょっと・・・・・・」
作品名:けいおん!! #1.5 作家名:泰緋