恋セヨ乙女
「静緒がモテるの知ってるだろ」
「…私は門田君と付き合って欲しいなあ」
「千景も遠くから通ってきてるし、応援したいよな」
「ああ、あの子も一生懸命で優しいよね。平和島さんだいすき!って感じで」
あとあのロシアのイケメンとか!中学の先輩とかいう人とかも!
臨也に反論させずに2人は盛り上がっていく。
その珍しい光景にか、単に騒がしいのを注意しに来たのか教室にいたらしい門田が近づいてきた。
「おい、あんまり…」
「あ、門田君」
「ドタチーン!君、勝手にシズちゃんを好きだってことにされてるよ」
漸く入る隙を見つけた臨也がここぞとばかりに大声で言う。
それに焦ったのは静緒だった。変な誤解をされたらいけないと慌てて立ち上がる。
椅子と机が妙な音を立ててきしんだけれど、それを気にする余裕もなかった。
「ちょ、臨也てめえ!…違うんだ門田、あの、これは帝人達が俺の為に言ってくれただけでその」
「何焦ってんのーシズちゃん、もしかして」
そう言って形勢逆転の空気に笑う臨也に止めを刺したのは意外にも門田だった。
「静緒が嫌じゃなかったら、俺は嬉しいけどな」
「…え?」
「ちょ…ドタチン?」
「やっぱり門田くんだ…!」
「かっこいい…かっこいいぞ門田ああ!」
「とりあえず騒ぐなよお前ら。あとドタチンって言うな」
再び硬直した静緒の頭を少し撫でて、門田は笑ってみせた。
「まあゆっくりでいいから。ちょっと考えといてくれよ」
そうして背を向けた門田の耳が、少しだけ赤くて。
それが却って本気ですよと告げられているようで。
「門田君、本当に男前だね…」
「いやーこれで一件落着だな!」
正臣がよかったじゃんと笑う。
「これで静緒は門田とラブラブちゅっちゅで幸せ!折原はハイサヨナラー!
だし、趣味悪い先輩は折原君に近付く平和島サンはいないわ!幸せ!で、帝人も幸せ!俺も幸せ!折原はどうでもいいし」
「ほんとだ!紀田さんめずらしくすごいよ!よかったね、平和島さん」
「へ…」
「門田君もゆっくり考えてって言ってたし、それに甘えたらいいよ。平和島さん、こんなにかわいいんだから、素敵な人と一緒に幸せにならないと」
ね、と帝人が首を傾げた。
それに合わせたように、午後の授業の予鈴が鳴る。
長い、長い昼休みだった。
臨也はいつの間にかどこかに行ったようで見当たらないが、静緒にとって今それは最もどうでも良い事だった。
後日談になるが、臨也に告白すると言って帝人を呼び出した先輩の話を。
結局、告白は失敗に終わったらしい。というより告白自体が敢行されていない。カラーギャングの黄巾族が絡んでいるとか、切り裂き魔に襲われたとかはっきりはしないがどうも入院してしまったともっぱらの噂だ。
大ケガなどではなくちょっとだけ腕に傷がついたとかその程度だということだが、それもまた静緒にはどうでも良い事だった。
なぜなら彼女には考える事がかつてない程にたくさんあったからで、それは――――また別の話だ。