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発光する夏

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遠くで戦輪が風を切る音と爆発音が聞こえる。この暑い最中によくもまあ。
ひときわ大きな爆発音のあとに三木ヱ門のすすり泣きが聞こえ、滝夜叉丸が困惑している姿が容易に浮かんだ。


熱を弱めることを知らぬ太陽を背に、できるだけ細かいしぶきを広げるように水を撒く。いくら大きいとはいえじょうろでそれをするのはなかなか技術を要するのだ。
水滴が細かく陽光を反射し、ちらちらと七色が煌めくさまはうつくしいと思う。

「綾部、」
声が聞こえたが、日差しを遮られたせいで影が落ちたのでそれよりも前に背後の来訪者には気付いていた。後ろを振り返ると、斉藤タカ丸がじょうろを片手に立っている。装束の色が一段と濃く見えるのは全身が濡れているせいだった。
「花壇に遣らなきゃ」
私の足元には水たまりができている。それよりもいくらか前方には向日葵が数多く咲き誇っており、明るい色彩は眩しげだ。

あれだけ自身を濡らしておいて、そっちこそ花壇に遣れていたのかと問いたい。
今日の水遣り当番である私達がこれを怠ればきっとこの花は枯れてしまうのだろう。早々に花壇から離れてしまったあの二人に期待はできまい。大人しく忠告に従って向日葵の根元に水を遣った。

「暑いねー」
「そうですね」
人目を憚ることなく、彼は頭からじょうろの水を被っていた。近くでやられるとこちらまで濡れてしまいそうだが、時折素肌に触れる水滴の感触は思いの外気持ちの良いものだった。


やがてじょうろの水が尽きたので、井戸へ向かうとそこには丁度彼がいた。
「もう直に被っちゃおう、って思ってさ」
そう言って目を閉じたかと思うと、彼は頭上で桶をひっくり返した。
びしょ濡れになった顔に髪が絡みついているのを、犬のように振り払う。その度揺れる黄金色の髪からちかちかと輝く粒が零れる。強まる陽の光と重なって、一人はしゃぐ彼自身が発光しているかのようだった。
「…、気持ち良い、ですか」
ぽつり。
問い掛けに返事はなかったけれど、にやりとしながら無言で差し出された桶を受け取らない理由が私にあるだろうか。

随分と重くなった桶を頭上に掲げて目を閉じた。灼けつくような光を放つのは、太陽か向日葵か、それとも。
作品名:発光する夏 作家名:梅田にと