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ひとみが陰る

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ただでさえ目立つ四年生の集団の中でも、やたら声高に己の美点ばかりを吹聴することで有名な先輩。平滝夜叉丸、彼は三郎次にとって願わくば関わり合いになりたくない相手の筆頭だった。


ある晩、左近が先生に呼び出されたとかで、一緒に夕飯へ行く約束をしていた三郎次は暫く左近が戻ってくるのを待つことにした。
半刻程で戻る、と左近は言っていたのでまだ時間はある。とは言ってもこの時間帯だ、級友達は皆食堂にいるため話し相手もいない。散歩にでも行くか、と校舎の裏手へ回った。

草むらを踏みしめながら進んでいると、遠くからざくりと自分以外の人間の足音がすることに三郎次は気付いく。ぞわりと背筋に悪寒が走る。
(まさかとは思うが…、曲者か)
息を潜めて懐の手裏剣に手を掛けた。しかし相手は全く己の気配を隠す気はないようで、慌てるような足音が止むことはない。
ゆっくりと足音のするほうへ近付くと、よく見知った相手、滝夜叉丸が草むらに両手を突っ込んで何やら慌ただしくしていた。

「…、何やってるんですか、滝夜叉丸先輩」
「ん、お前は確か、二年の」
「三郎次です」
淡々と会話をしながら三郎次はふと違和感を感じる。滝夜叉丸がこちらを振り向いた顔、その瞳には普段の彼とは異なり自信が感じられない。また、視線を落とすとその両手は土で汚れ、鋭い草で切ったのか所々血が滲んでいた。
「先輩、手…」
「ん、これか。別に何でもないぞ。それより早く食堂へ行かないと売り切れてしまうだろうが」
「どうせ先輩だってまだなんでしょう。…、どうかしたんですか」

辺りを見回すとそこには、首や四肢の切り落とされた手裏剣の的である人形が幾つも転がっている。
ああここは、彼の特訓の場であったのかと三郎次は悟る。そして目の前の滝夜叉丸の手には、あの戦輪がない。
「戦輪、探しているんですか」
「…」
滝夜叉丸は答えない。

三郎次は無言で足下の草むらに手を差し込む。それを見た滝夜叉丸は目を見開き、三郎次の手首を引き上げた。
「馬鹿か、お前は!私はそんなことを頼んだつもりはない!」
「分かってます。同情されたりとか、そういうのが嫌いなんですよね」
「当たり前だ!さっさと帰って、」

「俺はただ、プライドの高いひとが嫌いじゃない。それだけです」

黙っていればいいのに、と常々三郎次は思っていた。評価とは周囲に求めるものではなく、評価せざるを得ないような自分になってこそ手に入るものではないのか、と。だから滝夜叉丸のことを内心嘲笑うような感情があったことは認める。
それでも、三郎次は知ったのだ。そうでもしていなければ保てないものもあるということを。

幾つもの切り傷の中に、古いものも数多く混じっているのを三郎次は見逃してはいなかった。恐らく戦輪で切ったものなのだろう。積み重なる人形の残骸も切り傷も。それらの影は普段、自信に満ちた瞳に隠されているのだ。

「だから、先輩が今みたいな目をしているのは何だか嫌なんです、よ」
作品名:ひとみが陰る 作家名:梅田にと