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蝉の死骸

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【蝉の死骸】

みーんみんみんみんみん。


みーんみんみんみんみん。


「……うるせぇ」
「そんなこと言うても、どうにもならへんで」
氷帝学園男子公式庭球部も夏を迎えていた。日本全国がが夏を迎えているのならここだって夏を迎えている。
蝉の声に向日葵の黄色に朝顔の色とりどりに、夏を現すのは沢山あるけれど、夏と言えば暑さだろうか。
跡部景吾は愚痴り、忍足侑士はそれをなだめた。
地球温暖化のせいかは知らないが年々、夏は暑くなっている。
「アイスを買いに行かせた奴等、遅いぜ」
「……お前なぁ、樺地にアイスを買わせに行かせるな」
「お前だってアイスを頼んだだろう」
夏は暑い。
涼しくなりたいと誰もが思うだろう。エアコンが開発されたのも、かき氷が開発されたのも涼しくなるために人間が
頑張ったせいだろうか。
跡部が暑いからという理由で樺地崇弘や日吉若や鳳長太郎にアイスを買わせに行った。
他のメンバーは来ていない。
午前中が補習で、まだ終わっていないのだ。忍足も跡部も受けなくても良いぐらい頭がよい。
跡部が言うには補習を受けるのはテニス部の恥だと言うが、氷帝学園の勉強のレベルは高いため、追いつくのも大変だ。
「蝉が……啼いとるな」
「聞いてなかったのか?」
「ちょっと、昔をな」
テニス部の正レギュラーの部室にはエアコンがついている。跡部や監督である榊太郎が金に物をいわせて
部室を超豪華に改造したためだ。
忍足は部室の窓に風鈴をつけてみた。硝子で出来た風鈴だ。
風情を大事にする忍足は見た目でも少しは涼しくなるだろうと言う事で着けてみた。
効果があるかどうかは解らない。
太陽は自分の実力を見せつけるかのように照りつけている。
「京都にいたんだろう」
「おったで」
忍足が京都出身であると言うことは以外と知られていることだ。中学生になってから東京に、氷帝に来たそうだ。
親の都合で何度も何度も転校を繰り返した忍足は大阪か京都が自分の故郷としているが、
どちらか一つを選ぶとするならば彼は京都を選んでいた。
「暑いのか?」
「そら、暑いわ。東京と同じぐらい、もしくはそれ以上やな。暑くないように水をまいたりなぁ……」
自分の故郷のことを語り出す忍足は何処か楽しそうだ。
朝顔が咲いた軒先にホースなどで水をまいておくと、暑さで水が蒸発するので気化熱が奪われるとかで
少しは涼しくなるらしい。風鈴売りがリヤカーを押して、路地を歩いていく。
風鈴たちの合奏が、耳に心地よかった。
跡部はイギリス暮らし、ひいては海外暮らしが長いために日本の夏をよく知らない。
興味深そうに聴いていた。
「エアコンでは感じられない涼しさか」
「そうやな」
エアコンがあればその涼しさを感じることは出来ないだろう。暑さを楽しむと言うこともある。
忍足と跡部は暑さを楽しむ余裕なんてないだろう。跡部は風通しを良くするために窓を全開に開けて、
ドアも開けた。エアコンをきってみる。
エアコンは涼しくなるものの、人工的な風であるために身体の体温調節機能がおかしくなっていくと言う
欠点がある。

みーんみんみんみんみん。

「蝉がうるせぇ」
「……まあまあ、蝉は七日しか啼かんのやから」
ロッカーに背中を預けて、忍足は窓の外の景色を見る。
グラウンドではサッカー部や野球部はこんな暑さの中で少しずつだが練習をしているし、夏空が覆っている。
全員が揃ってから部活と跡部は決めていた。
暑さの中で練習をするにしても方法をちゃんとしなければ熱中症や熱射病で倒れてしまう。
「入れ替わり、たちかわりで啼いているのか。ご苦労なことだ」
「七年間、土の中におって、七日だけ外に出て啼くんや」
「詳しいな」
「自由研究で蝉の研究をしたさかい、見たことないやろ。蝉の羽化」
「テレビぐらいでしか見たことがないな」
小学校の宿題の自由研究で蝉の研究をした。
蝉の羽化は夜中に始まるから、夜中に懐中電灯と虫取り編みを持って樹に掴まって羽化をしようとする
幼虫を捕まえに行ったのだ。
見つけた幼虫を部屋のカーテンに止めて、羽化を見ていた。茶色い幼虫の殻から、真っ白な羽根の蝉が出て
真っ白な羽根も乾けば、図鑑などで載っている蝉だ。ゆっくりとだが、成虫になっていく蝉に驚いた。
そしてその蝉が一週間で死んでしまうことも、驚いた。
人間の寿命は延び続けていて地域によっては八十年は生きられるというのに蝉は一週間だけである。
「幸せなんかなぁ?」
「……何がだ?」
「七年間、土の中で、やっと大人に慣れたと想うたら、一週間しか生きられへんのやで。少ないやろ?」
「そうだな。少ない」
「それで蝉は幸せなんかな?」
神社に行った時に落ちていた蝉の死骸。
動くことはなく、瞳は何処を見つめていたのだろうか?と小学生の頃の忍足が疑問に思っていた。
今だって疑問は解けていない。
蝉の抜け殻を拾い集めることは良くあるけれど、蝉の死骸を集めると言うことは余りない。
抜け殻と死骸の違いは、死骸の方が中身だったということか。

みーんみんみんみんみん、みーんみんみんみんみん。

啼いている間にも、時間は過ぎていくのに、寿命の終わりを知ってか知らずか、
それでも、啼いている。
時間が終わってしまえば楽しい時間も終わり、二度と空を飛ぶことも、啼くことだってない。
「……限られた時間でも……いいんじゃねぇか?」
「跡部?」
「精一杯、やれば。ま、蝉の気持ちなんて俺には理解出来ねぇけど」
忍足は跡部に視線を映せば。窓の下に座って背中を預けている跡部を見て、無性に笑いたくなってしまった。
大事なのは生きている質だと跡部は言っている。
一週間だけだろうが八十年生きようが、どんな風に生きるかの方が大事だ。
「……まさか……跡部から聴けるなんて想とらんかった」
「俺が言って悪いか?」
「なんっつーか、不意打ち?」
「……ばーか……」
跡部は微笑した。忍足は笑った。
部室に誰かが来る気配がする。補習を終えた者達か、アイスを買いに行った者達か、は不明だが、誰かは揃うだろう。
感傷的になる気分を夏空に放り投げるように忍足は空を見上げる。
太陽が、眩しい。


【Fin】
作品名:蝉の死骸 作家名:高月翡翠