rainy day
幾通りかの心当たりのつく場所を当たっていた門田は、立ち竦んでいた人物に声を掛けた。
「ここにいたのか、臨也」
相手の反応はない。
門田の声に振り返ることもなく、折原臨也は振り続ける雨を見上げていた。
空から落ち続ける雨粒は、臨也の上着を濡らす。ずっしりと重く圧し掛かる様子が、衣服に染み付き広がっていく色の変化で判断できた。
「今日はシズちゃん出歩いてないみたい」
独り言のように呟く臨也に、門田は黙った。
ずっと静雄を探していたのだろうか。
傘すら差さず、散々池袋を歩き回った様子の臨也を結局門田は放っておくことなどできない。
人を蔑む冷酷な感情や危険及ぼす因子を含んでいるというのに、時折臨也の行動はどうしてか自虐的にも映る。今日だって静雄を構いにきたに違いないが、すぐには帰らず自分が迎えに来るまで此処にいたのだから。
透明な雫が黒い髪からアスファルトの地面へと落ちる。雨の匂いが辺り一面を支配する。
気温の下がった屋外では、臨也の格好は寒すぎた。
「お前、風邪引くぞ」
門田はそっと臨也の顔に手を伸ばした。
白く冷たい頬。
触れた瞬間、自分の体温が奪われていく。
しかし同時に手のひらの感触で意識を取り戻したのか、臨也はやっと門田へと振り向いた。
「うん、ちょっと寒いかな」
ふと見せる寂しげな微笑み。
臨也は自分の手を引き寄せ、手のひらに頬を寄せる。
重ねられた肌も、握った指先も、末端まで臨也の体は冷え切っていた。
「ドタチンの手、あったかいね」
向けられた甘えた口調が報われない現実と相反していた。
感情が波打たないように、常に冷静でいられるように、いつも門田は心掛けている。
危なっかしくて見てられない、というだけでは済まされない。もう大人になってしまったからこそ、取り戻せないものもあると知っている。例えば友人を演じている自分と臨也の関係、だ。
この恋心は臨也の信頼を失い、全てを壊す。
胸に秘めた感情を抱えていることを隠したまま、門田は臨也の手を引いた。