call,me
寂しさは誰にでもある。
それは折原臨也の中にもあった。他人と関わっている合間、生きている間はずっと消えないであろうこの感情を一人の人間として臨也も持ち合わせていた。それほど強い人間ではないことを知っているくせに、人は寂しさを抱えている自分を隠すから不思議だ。
この寂しさはいつも何処からやってくるのだろう。
例えば他者と別れを告げた時、ひょっこりと姿を現して臨也の心を揺さぶる。
池袋から、静雄の前から姿を消したその直後から。
臨也は手に握り締めた携帯電話を開いた。
機械には登録していないが、勝手に脳内が記憶したナンバーを押す。
プルルル……と無機質なコール音が聞こえた三回目。
聞き慣れた低い男の声が受話器から臨也の鼓膜へと伝った。
『もしもし?』
「……」
臨也は口を閉じた。
耳を済ませると相手の呼吸の音が聞こえる。自分が池袋から姿を消した後でも、彼は変わらず生きている。
調べた情報としては知っていたけれど、実際に確かめたのはこれが初めてだ。
寂しさが溶けて姿を消していく。
臨也が安心感に瞳を閉じたまま黙っていると、不躾な相手に痺れを切らしたのか、電話越しの男は苛々とした声に変わった。
『誰だよ?』
「……」
『黙ったままか、ああ?』
たった一ヶ月会ってないだけなのに、彼の声がひどく懐かしい。
彼、平和島静雄の声は臨也の心を満たす。存在感だけではない。静雄は臨也に声だけで安心感とときめきと、刺激を与える。彼という存在に惹かれてしまうことを心の底から恨んでいるはずなのに、繰り返し何度でも。
ここで臨也にとって計算外なことがあった。
あの我慢弱い静雄がこの電話を切らない。ディスプレイに非通知と表示された相手の電話に静雄が出ることも、十分に予想外だったのだが。
自分は声だけ聞けたら満足だったのに、と臨也は自分勝手に考えていた。
黙ったままのイタズラ電話の主に、静雄は喋りかける。
臨也は思わず息を飲んだ。
『……てめぇ、臨也だろ?』
どうして分かったんだろう。
呼吸を潜めていた唇が震える。臨也は一人きりの事務所の中で通話している。周囲の場所は分からないはずなのに、静雄は臨也の気配を感じ取った。空気を振動出せて伝わる音声から。
声が出せない臨也を無視して、静雄は喋り続ける。
『手前、ウゼェことするんじゃねえよ』
通話を切られるかと思った。
だが、静雄は溜息をつきながら、平静とした声で言葉を続ける。乱暴な口調は、ああ、いつもの静雄の声だった。
『早く俺の目の前に出てこい、殴らせろ』
電話越しの彼の少しの優しさに、いとおしい気分になる。
目の前にしたら憎くて仕方ないはずなのに、矛盾していると分かっているのに、彼の優しさに惹かれてしまうどうしようもない弱さを自覚する。
結局、自ら姿を消したくせに戻りたい。この感情を手放せない。
静雄は、寂しがりやな臨也が池袋に出てくる口実を与えてくれるのだから。
いつも不器用に、遠まわしに。