本当は、俺達、だけど。
静雄の料理は、臨也のそれに比べるとかなり適当だ。
臨也は、首を傾げながらじっとその動作を見つめていた。どうしてこんなに適当なのに、美味しい料理を作る事が出来るのか、そんな顔だ。
「ほら、出来たぞ」
「シズちゃん、端っこ焦げてる」
「うっせぇ。味は変わんねぇよ…多分」
「適当だなぁ」
苦笑いしながら、それでも臨也はフォークを手に取る。
そうして出来たてのフレンチトーストを口に運び「美味しい。何で?」と繰り返す。そんな時間が、静雄は嫌いではなかった。
年に一度、もしくは二度程のペースで臨也はこうした行動に出る事がある。
はじめこそ常にない態度に困惑したが、結局は誰かの作る手料理が食べたい、らしい。
自分が作っても美味くない。さぁ、作ってくれと言う態度には閉口するが、まぁ、道理が通っていると言われればそんな気もしてくるから不思議なものだ。
静雄の記憶が正しければ、去年は肉じゃが。その前は、お好み焼きだったような気がする。
「誰かの為に作れば、美味くなると思ったのにな」
皿の端を子ども染みた仕草でつつきながら、臨也がポツリと零す。
「…馬鹿か。そーゆーのは、好きな相手じゃなきゃ意味ねぇんだよ」
じゃあ、これが美味しいのはシズちゃんが俺を好きだから?
肉じゃがの時に叩いた軽口が臨也の口から出なかった事に、静雄は安堵する。なぜ安堵したかと聞かれれば、答える事は難しいが。
臨也の口には、大き過ぎたらしいパンをナイフで切りながら、少しずつ噛みしめている姿が見える。殺し合う事すら厭わない自分達に、この時間は酷く滑稽だ。
「―――甘い」
蜂蜜で濡れた唇が目に入る。臨也の紅い唇に光沢を与えるそれから目を離す為に、静雄は幾ばくかの時間を浪費する。沈黙、と呼ぶには短い間の後、彼の口から出たのは面倒そうな吐息であった。目前の相手が、自分の感情が、それら全てがただ面倒だ。
「…文句言うなら食うな、バカ」
「嫌だよ、俺のだもん。…でも、甘い」
甘い甘いと呟く臨也に、多少イラつきながらフォークを奪う。
口に運んだそれは、確かに胸が焼ける程甘かった。
ねぇ、気付いてる?
(甘いのは、君の方)
本当は、俺達、だけど。/end
作品名:本当は、俺達、だけど。 作家名:サキ