千年の孤独
ただ、唯 ―――。
男は重厚な宮殿の回廊に敷かれている大理石の床を鳴らし、
過度ともいえる装飾窓越しに音もなく降り積もる雪を眺めていた。
唐突に追従する少年に問いかける。
――君は雨が降ってきたらどうする?
「傘を、差します・・・。」
少年は戸惑いつつも、消え入りそうな声で答えた。
後ろから聞こえてくる声ににこりと微笑む。
――そうだよね。
雨が降ったら傘を差す。寒かったら外套を羽織る、お腹がすいたら食事を摂る。
どうせ生きているなら、おいしいものを食べたい。
きれいな部屋に住みたい。あたたかい家で過ごしたい。
君はそう思わない?
振り返ってわずか後ろを追従している少年を見やれば
彼はこくこく、蒼白な顔でうなずいた。ふわふわした金髪が日に透けてきらきらと輝く。
――ラトビアはいい子だね。いつも言う通りに答えてくれる。
微笑を崩さずに話しかける。ちらりと視線を投げても、
その瞳がこちらに向けられる事はなかった。
視線はうろうろと所在無げに彷徨い、最後には磨かれた大理石の床へと落ちる。
いつものことだ。
外から強い風が吹き付ける音が聞こえてくる。
日差しは柔らかく差し込んでいるのに、一歩でも外に足を踏み出せば
吹きすさぶ風は身を切るようだ。
分厚い壁に隔てられていても、長く伸びた回廊はひんやりとして冷たかった。
寒い、と思った。
どんなに豪奢な宮殿にいても、上等な毛皮を着ても。
自分の周りには富があり、繁栄があり、人が集まる。
怯えた目、蒼白な顔、交わることのない視線、伝わらない、温もり。
人に、物に囲まれているのに。
――ひどく寒い。
指先から伝わる冷気はひっそりと全身に広がり、体の奥底にまで浸透する。
そうしてしまいには、何も感じなくなるのだ。
誰かに傷付けられるのは嫌だ。
人の言いなりになるのも、何かを奪われるのも。
でも隣に人がいたら、話しかけたい。関わっていたい。仲良く、なりたい。
ただ、それだけだったのに。
どうして皆いなくなってしまうんだろう。
何も残らなくなってしまうんだろう。
ただ、生きていたい。
そう願っただけだった、はずなのに。