二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

この傲りを貴方に知られて居た、絶望。

INDEX|1ページ/1ページ|

 




 皆本金吾は、強くなる為に痛切に自分自身を捨て去りたいと思って居る。七松を越え、戸部を越え、父を越えるには、己を捨て、無心に成らなければ為らぬと思って居るからだ。然しその為に毎日修行を重ねて居るのに、金吾は楽しければ笑い、悲しければ泣き、師事する者に誉められれば喜び、遠き地の親が恋しければ一人布団の中で枕を濡らす。そして感情のままに行動してから、金吾はそれへの自己嫌悪で遣る瀬無い怒りをその身に宿すのだ。けれどその怒りさえ自らの進む道には要らぬ物だと気付いた時、金吾は一心不乱に的にそれを叩き込む。この場合叩き込む的は人型に縛った藁の束であり、得物は真剣で無く竹刀である。三年生以下は教師の許可無しでは火薬や真剣及びその他危険物を扱っては為らぬと云う決まりの有るこの学園内ではそれも仕方の無い事だが、一度真剣を手にしてしまった者にとってみれば、竹刀は真剣に較ぶべくも無い。丸っきり、明らかに重さが違うのだ。それも物理的な重さでは無く精神的な物だが。一度それを手にし、それで何かしらを殺したいと、そう願ってしまった人間にとって、竹刀なぞ玩具の様な物である。人型の的を「玩具」で一心不乱に叩き付ける金吾の後ろで、それを眺めていた竹谷が大きく欠伸をした。

「申し訳ありません、先輩、お暇ですよね」

 金吾は振り返り、竹谷に向き直る。目尻に涙を浮かべた竹谷は模糊と口の中で喋り、ふるふる首を振った。

「…否、その様な事は、無いが」

 今日は冬の晴れ間にして久し振りに気温も高く、日向ぼっこには最適の天気と云えよう。恐らく、この陽気の中縁側でじっとしている彼は今、耐えられない程酷く柔らかな、暖かい眠りへと誘われている。ともすれば落ちそうになる彼を見て、金吾は困った様に笑った。

「先輩、どうせ今日はもう授業も無いですし」

お休みになればと、二度目の進言をする。

「…あー、」

 対して竹谷はのろりと片手を上げ、自身の頭巾を引っ張り下ろした。それでそのまま顔を覆い、もう片手を振って金吾を呼び寄せる。金吾は首を傾げ、竹谷に近付いた。自分の先輩の七松よりかは小さいけれど、乱太郎の先輩の善法寺より少しくらい大きな身長の彼は、金吾に比べたら矢張り迚も大きい。ふわふわとした髪が目の前で風に揺れ、金吾は目を細めた。

「竹谷先輩」

 頭巾から唯一微かに見える口元が、やおら開いた。

「…金吾、お前は、その膿を出す為に」

 一度、俺と手合わせしようか。




 殺さない自信は無いけれど、と続けられた言葉に金吾は、自分の内側にこの人が気付いて居たと云う事と、竹刀だって人を殺せるのだと云う事に気付き、手の中の得物が急に鉛よりも重く感じられた。