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これはなんでしょう?

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”これはなんでしょう?”

件名にそれだけ打ち込んで、画像を添付して送信した。

「こんな天気が一生続けばいいのに」というほどの、やわらかくて爽やかな季節を迎えている五月の下旬。
送信先は阿部で、添付した画像は、良好すぎる日差しが差し込む午前中の教室、窓際でひらひらとはためく
花井のタオルだった(朝練の終わりに干した)。朝のHRが始まる30分前、阿部が休むなんてめずらしいという話を篠岡と花井としたが、
実はその一時間くらい前に「今日休む」というメールを阿部から受け取っていた。「なんで?」「だるいから」
「風邪?」「精神的に」「ノートとっとくよ」「お前じゃ期待できないから笑」「じゃ篠岡に頼んどく笑」
なんていうやりとりの、延長である。さっきのメールは。

数学Aの授業が始まろうとしていたので、おれはケータイを開いた状態のまま机の中に入れる。
前の席の花井がごそごそと机の中をいじってるのをみて、広い背中だなあと思った。白いシャツが眩しい。
すると、すっとごそごそするのをやめて、下を向いている。多分花井も阿部にメールをしている。
「今日なんで休んでんの、大丈夫?」たぶん絵文字つきで。
おれは大きな背中がちまちまとした作業に熱中しているさまをみながら、
どうして阿部は花井に今日休むっていうメールをしないのかということについて考え始めた。
おれは数Aがとりわけ苦手だったのだ。
考えつつ、ペンケースから青い色の、角ばって透けてないシャープペンを取り出してカチカチする。
黄色い文字でフランス語(おそらく)で何か書いてあるシャープペン。
出会って間もないころ、阿部は「なんかそのシャープいいな」と言っていた。
今でも時折思い出したように言って、おれが文字を書くのを見たりする。

勝手な妄想だが、おそらく花井と阿部の間にはこういうことが足りてない。
花井は阿部との間に大きな物語を求めている。好きになって、思いを伝えて、好きになりあって、いろいろして、
喧嘩もして、でも絆はどんどん深まって行くばかり。
これは典型的な恋愛像というよりも、大枠なんじゃないだろうか。そいうのは大きすぎる枠で、そのなかにたくさんの個々がある。
花井はそれを阿部と探すべきだった。もっと細かくて取るに足らないことを積み重ねるべきなのに。
初初しいというよりは花井の本質や性格がそうさせているのだろう。
花井は阿部の家の階段が何段あるのかとか、数えたりはしないのかな。
ぼんやりそんなことに思いを馳せていると薄暗い机の中をきらきらの光が慌ただしく点灯していた。阿部だ。
「やっぱり行くことにした。答えあってたらガム。」
ガムっていうのは、この間の練習の後に買った新発売のやつで、お姉さんがサンプルを配っていたのを二人してもらったのだった。

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昼休みのがやがやが落ち着いたころ、阿部は結局メール通り学校に来た。「けっこう晴れてるし」と
まるで散歩感覚。真面目にみえてこういうところがあるのは、安心感がある。
花井や篠岡が阿部とおれの周りに集まってきて、いつもの部のノリで会話が続いているとき、「水谷」と阿部が思い出したように言った。
「花井の頭に巻いてるタオルだろ。あれ、すぐわかった。」
阿部が年相応の顔で笑う。笑うと、目じりと頬がきゅっとなって、笑顔らしい笑顔になる。
「正解ー。すげーな阿部ー」
と添付メールの一件は阿部が勝利を収めた。
だろ、と言って阿部は教科書をかばんの中から取り出し始めた。時折、暑い、といいながらカッターシャツをバタバタさせる。
花井がそれを黙ってみている。球児にしては白い腕は、太陽に当たって若さを発光させてるのに、顔は悩ましげだ。
十中八九阿部のいった内容のことだろう。
あれってなに?おれのタオル?なにそれ?どいう文脈?ていうか昨日なんで休んだ?
気になるならこの場で聞けばいいのに、おそらく二人っきりになって少し落ち着いた感じになったとき、
花井はこういう話をするんだろうな。だから阿部は花井に「今日休む」っていうメールをしないんじゃないか。

あのさ、ノートとか、と篠岡に話しかける阿部を、まだ見ている花井を見ながら、
お前は「あれ、すぐわかった。」のところで喜んでりゃいーんだよ、と思う。

作品名:これはなんでしょう? 作家名:ピーチ