好感度の違いです
「・・・・っていう夢を見たんです」
西口公園のベンチで先ほどまで延々と夢語りをしていた僕は、その言葉とともに一呼吸置いて、横に座る背の高い青年を見上げた。
その青年―――静雄さんは、僕が話し出してすぐ空になったコーヒーの缶を握り潰して無言になってしまったので、僕が黙ると、ベンチの周りだけまるで異空間みたいな静寂に包まれた。正直、居心地が悪い。
静雄さんといる時間は嫌いじゃないのに、静雄さんといる時に臨也さんの話をすることは、僕は大嫌いだった。こうして静雄さんが黙り込んでしまうのもあるし、何より僕は、静雄さんといる時に臨也さんのことを考えたくない。
だからいつもならこんな話をしたりしないのに、今日はタイミングが悪かった。ベンチに座って一人あれは最悪だったなぁ・・・と小さく愚痴った僕の声を、たまたま通りかかった静雄さんが拾ってしまったのだ。
「何がだ?」
「わ、静雄さん?!」
いいえ何でもないです、と狼狽する僕を不憫に思ったのか、言ってみろよ、と静雄さんが大人の顔をして話を促した。その顔に負けて(だってカッコ良かった)僕は仕方がなく先日見た夢の話をしたのだが、予想通り開始十分でやめとけば良かったと後悔した。結果はわかりきってたのに、なんで話しちゃったんだろう。静雄さんの表情のない横顔を見ながら、僕は自分に苛立った。夢の内容は、来神高校で僕が臨也さんたちの同級生で、と言うもので、自分でももう思い出すのはやめようと思うくらい、酷い夢だった。
「し、静雄さん・・・?」
「・・・お前はそれで、ノミ蟲を殴ったんだろうな?」
「へ?」
暫く無言になっていた静雄さんが、空き缶をゴミ箱に投げ入れながら突然そんなことを言った。
殴るって?と間抜けな顔で返した僕を、静雄さんはまた大人の顔でゆっくり振り返る。
「ノミ蟲にキスされたんだろ?」
「へ?あ、はい、夢で、」
「だったらやっぱり殴っとかねぇと」
「え、でも夢ですよ?」
「現実でやられてからじゃ遅いだろ」
「・・・それは、そうですけど」
でも夢でキスされたから殴るだなんてちょっと非常識じゃなかろうか。僕のそんな気持ちを察したかのように、静雄さんは「あーいい、いい」と言いながら立ち上がって、僕の恋人の顔をしながら、「俺が代わりに殴ってくるから」と新宿方面へと歩いていった。
残された僕はニヤける顔を抑えながら、今度臨也さんに会った時にはこの話をしてやろうと、臨也さんの腫れた頬を想像しながら思った。
臨也さんと過ごす時間は大ッ嫌いだけど、臨也さんといる時に静雄さんの話をすることは、僕は大好きだった(だって歪んだ顔が)(最高に)(愉快!)