ないものねだり
長い渡り廊下のずっと先に、見慣れた背中を見つけた。
思わず声をかけて駆け寄ろうとした、けど。
「ひな、」
「日向先輩!!」
それよりも先に、彼女が、俺を追い越した。
「んだよ、お前かよー」
悪態を付きながら、それでも嬉しそうに彼は笑い返す。
見たことのないくらい穏やかな笑顔だった。
「日向…」
一人佇む俺が口にした名前は、本人には勿論、誰にも聞こえることなく消えていった。
(届かない、届かない)
(何ひとつ、とどかない)
眩しいほどお似合いな二人が、じゃれあいながら角を曲がって行った。