名前を
覚えていないと言った。嘘はないのだろう。本気で戸惑って本気で憤って本気で困って、本当に俺達を考えてくれている。それが滲んで俺でも解ってしまうほどだ、嘘など吐き通せはしないんだろう。
案の定、思い出してないものをどうやって呼ぶんだよと少し拗ねた様に言われた。
「どうしたんだよ、突然」
「んー…じゃあさあ、思い出したら教えて、は駄目か? その時は呼ばせてよ。お前の名前」
「…そりゃあ…構わないけど」
酷く不審そうに俺の顔を覗き込む、柔らかい色の瞳。苦笑して、だってその方が仲いい感じするじゃん、と子供のような言い訳をした。
そうすれば少し、本当に少し照れた様に目を開いて、コレなのか?とお決まりの冗談を。
おとなし。綺麗な響きだ。こっちだってとても好きだ。けれどこいつの名前だもの、きっとそれだってきれいに違いない。
(仲いい感じ、するじゃん)
ごめん。俺は今とても酷い事を考えてる。
お前は来たばかりだから知らないだろう。消えた仲間は一人じゃない。俺が仲良くなった奴だって、一人じゃない。目の前で消えるそれを俺は見送って残されて来たんだよ。何度も、何度もだ。あれが成仏なんだとしたらさ、よかったなって、言うしかなかったんだよ。お前の様に強くないから。何度も。
(…でも俺、お前の『友達』だ。今。きっと。)
沢山、見送ってきたんだよ。
だから俺だって誰かに見送って欲しかった、それがお前ならと思った。
酷い事を、考えてる。
(お前を置いていこうなんて)