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あと一歩の所まで

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 その日の練習試合は遠出しなければならないものだった。相手の中学の情報が充分に得られていなかったのと、そこに注目すべき選手がいるとの噂が入ったことから、わざわざ大型バスで遠征したのである。しかしながら期待した成果はあがらず、いつも通りの勝利を掲げて帰路につくことになった。
ぐずついていた天気はとうとう崩れ、小雨が降り始めている。午後からの試合だったこともあり、外はすっかり暗くなっていた。汗を流した、各々を乗せたバスは街頭のほとんどない一般道を走行している。午前中の練習と移動、そして試合を経ての心地よい疲労感で、ほとんどの者は(大袈裟すぎるクッションのついた)椅子(倒すことができるので簡易ベッドの役割にもなる)で寝息をたてている。
佐久間の隣に座った源田は、窓際に座り、単語帳を広げている相手越しに時折過ぎる一瞬の街灯を、ぼんやりと眺めていた。心地よい温度と湿度が保たれたバスの中では、眠気がかなりの脅威をもって襲いかかってくる。こんな状態で単語帳を広げられる佐久間は勇者だなどと考えながら視線を相手へ移した。
目が悪い訳でなく、目を守るためだとかいう特殊な眼鏡をかけている佐久間は今、眼帯を医療用のそれに変えている。源田の位置からはその眼帯は見えないものの、単語を追う橙色の瞳を捉えることができた。上部から照らす煌々とした光と、一定距離の街灯の光、それらを浴びる佐久間を眺めて、不意に源田は言葉を落とした。

「美人だな、佐久間は」
「………いきなり何だ」
「いや、今更なんだがな」

 見つめられた途端、起こった罪悪感がどこからきたのか理解しがたかった源田は、相手の視線から己のそれを外せなくなっていた。強いて言うならばこの友人の美しさに今更気付いたことや、友人という立場の人間(しかも男である)を‘美しい’としみじみ感じてしまった事実だろう。

「どうせなら格好良いと称してほしいな」
「今の状況だと、美人、が当てはまった」
「それは‘格好良い’人間の嫌味か?」

 いつの間にか単語帳へ戻してしまった佐久間の瞳を見つめ続けた。源田は今、瞠目している。

「佐久間は俺を格好いいと思っているのか」「まあ鬼道さんには及ばないながら。実際もてる癖に何を今更」

 眠気はいつの間にか薄らぎ、少しだけ体温が上昇したような感覚。これは‘喜び’であると源田は自覚した。

「佐久間に言われると嬉しいな」
「黙れこの天然タラシの鈍感野郎」

 佐久間の放った、早口じみた暴言の意味を、律儀に思考し始めた源田は、相手の顔が僅かに紅潮していることに気付かず終いだった。




作品名:あと一歩の所まで 作家名:7727