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ふたりだけの春へ

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試験週間の放課後は静かだ。
部活動は休止になり、生徒達の帰宅足取りも早い。
四つ並びの校舎の一番西側にあるこの教室は校門から最も遠く、独立した形になっているからなおの事だ。
鉛筆が紙をなぞる音。
室内にはそれだけが響く。




「先生」
「うん……」
「俺様が目の前に居んのわかってる?」
「勿論」
「だったらさぁ、こーゆーのってヤバくね?」
「どおして?」
「どーして……って、こんな所で試験問題作っちゃっていいかって話」
「ここ、私の教室だもん」
「まあ、そりゃそうだけど」

それに俺様の教室でもある。
って、そういう問題じゃなくってさ。
試験問題なんて大事な物ってのは、普通職員室で作るもんじゃねーの。
などと。俺様は先生の短く切りそろえられた小さな爪を見ながら思った。

「誰かに言うの?」

先生は手元を動かしながらたずねてきた。
俺様の生まれる前からある三菱の渋いあずき色した鉛筆を、その華奢な指先に挟んで滑らかに動かしている。

「俺様は、そんな野暮じゃありませんって」

そう答えると、淡いピンク色をした唇の端が、ふっと上がった。
お見通しって意味だ。

そうなんだ。

俺様は試験の問題なんか見ちゃいない。
先生を見ている。
開け放たれた窓から、心地好い風が春の匂いと共に入り込んでくる。

「あのさぁ、先生」
「なに?」
「試験終わったら、どっか遠くへ行かない?」

いいね。と予想以上に、先生のピンク色の口元が綻んだ。

「うんと遠くへ行きたいな」

ああ。やべぇなこりゃ・・・・・・
自分と同じ気持ちでいてくれるってのは、本当にたまらない。

決めた。

桜咲く信濃の里へ。
一足遅れの春へ。
大好きな先生を連れていこう。
作品名:ふたりだけの春へ 作家名:屋島未来