aph 『我が道をゆくには』
菊はしばし耀の顔を見つめると、目をそむけ、遥かにそびえる山をじっと見た。
「耀さん…… 私は、この短い期間に、学んだんです。
大志を唱えるにふさわしいのは、みなの期待に応えられるだけの能力を持った者こそだと。そして、大志を果たすことができるのは、みなの期待を裏切っても我が道を進む勇気を持った者だけなのだ……と……」
菊は振り返った。
「耀さん……私……あなたの期待には…………」
長い沈黙。息の詰まる空気。
やがてのち、耀は何も言わず、後ろへと踵を返した。
立ち去らんとする耀の背中に向けて、菊は絞り出すように呻いた。
「――ごめんなさい……」
耀は最後にもう一度足を止めると、振り向くことなく空を仰いで言った。
「バカ菊。行くと決めたんなら謝ったりすんなある。お前が変わり者なのも、頑固者なのも、今に始まったことじゃないある。
昔から……お前は我の思い通りにはならなかったある……。何も、何も変わってないあるよ…」
言い終わった耀の顔が淋しげにうつむく。そして聞こえるともなしに、小さくつぶやいた。
「……何も、変わらないある……」
再び歩き出す耀を、菊はもう呼びとめなかった。
菊の瞳に涙が潤む。
空を仰いだ耀の表情は、菊からはついに見えなかった。
了
作品名:aph 『我が道をゆくには』 作家名:八橋くるみ