不器用無様なその男
「貴様を何度斬った所でこの苛々は晴れない、大人しく俺の視界から消えろ」
「……っ、ご覧の通り、歩ける状態じゃねえよ…どっかの浅黒い馬鹿のせいで…、」
不自由な体に不自由な呼吸を取り入れながら見上げる姿は死神の様だった。これで武器が鎌だったらもれなく黒頭巾をプレゼントしているところだ。
ただの喧嘩なら、慣れた。武器さえなければ餓鬼の喧嘩とも言えるかもしれない。目の前の馬鹿がたまに、こうして踏み外さなければ。
気に食わない、と酷く言うようになって。一方的に俺をボコらなければ気が済まないそぶりを見せるようになった。餓鬼の喧嘩はもう餓鬼の暴力になってしまった。大人しく受けてやる義理など本当にないのだが、ないけれど、
俺を見て酷く燻るものを抱えるこいつの、苛立ちだけとは言えない表情を。眺める。その奥の感情の名前など知らない。こいつも自覚なく名前もなく、だからこそ苛ついているのに違いなかった。
(友達、いなそうだもんな。ひとりも)
寂しそうだとは、思わない。一度だって。でもそんなものなくたって、きっと欲しいものは欲しいのだ。
(くそ。死ぬ程痛いなあ、)
俺をそこまで見たくないなら自分から離れろよといつも言い損なっている。