森の中で…
青白い月は 流れ来る雲に隠され 闇が辺りを包み込んだ。
先ほどまでの月明かりに慣れていたイドの視覚は全て奪い去られ
暗黒が 冷たい汗に濡れた肌に ひたりとはりついた。
イドは 両目を固く閉じて 自分の心に言い聞かせた。
「気の迷いだ… 」
そっと瞼を開き 暗闇に眼が慣れるのを待つ…
風は そよとも吹かず、虫の声さえ聞こえないが 何処かで微かに草ずれの音がした。
傍らに 打ち捨てられたように在る古びた墓石に そっと手をふれてみると
氷のように異様に冷え切った感触が 指先に伝わってくる。
其れは 墓石というよりも まるで亡者の国へ続く重々しい石の扉のように思えた。
「ねぇ… おにいさん、僕達の小鳥を見なかった?」
不意に背後からかけられた その声にイドが振り返ると
其処には 無邪気な笑顔を浮かべ 空っぽの鳥籠を捧げ持った二人の子供の姿があった。
「ねぇ… 私達の 蒼い鳥知らない…?」
悲しそうな声で 少女が問いかけた。
だが ようやく暗闇に慣れ始めたイドの眼には
何も無い筈の鳥籠の中に
闇よりもなお暗いモノが蠢いているように見えた……