シンデレラは二度死ぬ
そういつだって願っていた。
世界の果てに取り残されたような
一人ぼっちの現実から。
誰もいない。近づかない。触れ合わない。
向けられる敵意だけは、星の数ほどあった。
興味を抱かれることだけが、他人との繋がり。
友人がいること。他愛無い会話を交わすこと。
バカやって笑い転げること。純粋に、喧嘩すること。
普通のこと。そのどれも、自分は持っていない。
怒りが抑えられない自分は、沸騰する頭の中で
呪いの言葉だけ吐き続ける。
もう嫌だ。嫌だ。嫌だ。うるせぇ。うるせぇ。うるせぇ。
ぶっ潰す。ぶっ殺す。ぶん殴る。
世界は常に灰色で、いつも自分とその他の線が引かれている。
希望は捨てた。あの時に。大切なものを壊してしまったあの時に。
優しくしてくれた人を、ただ守りたかった。
遠く聞こえる踏切の音が、ずっと頭の中で
鳴り響いていたことだけをよく覚えている。
気がついた時には、何もかもぶっ壊れてた。
守ろうとした人すら、その一つになっていて。
自分に与えられたこの力は、守るための力ではない。
ただ壊すだけの力。暴力そのもの。
何かこの力には意味があるんじゃないか、
あってくれと、心のどこかでずっと願っていた。
願いは簡単に消え失せた。
あの時から、世界は色を失くしてしまった。
残ったのは、強烈な怒りと嫌悪感だけ。
こんな力を持ってしまったことの、理由は今だ分からない。
ごく普通の家庭で育ったし、両親はこんな自分を慈しみ
弟も、たまに気に入らない所はあるが優しい奴だった。
何が原因なのか?何故自分だけがこんな力を持っているのか?
どうして怒りを抑えられないのか?
疑問符と共に浮かび上がるのは自分への嫌悪だけ。
必然的に、他人と距離を取るようになった。
怒りに支配される自分も、それによって傷つく人を見るのも
もううんざりだった。
それでも、因縁をつけられたり近付いてくるやつはいる。
新羅のように、よくわからない興味で近付いてくる奴もいた。
それでも、いつも一人。
世界は相変わらずモノクロで、自分だけが
一人ぽつんと取り残されている。
だが、一つの出会いをきっかけに、
平和島静雄は世界に色を取り戻す。
今まで受けた傷のどれとも違う、鮮明な赤。
モノクロの世界を切り裂く一閃。
気がつけば、駆け出していた。
その背中を、その影を。
夢中で、追いかけていた。
取り戻した色は、たった一つ。
目も眩むような赤。
『『『ほら・・・楽しいだろう・・・?』』』
何度も何度も頭の中で繰り返される言葉。
取り戻した世界の色は、狂っていたけれど
引き換えに彼が、手に入れた物もある。
少しの友人。少しの穏やかな時間。
少しだけ、笑っている自分。
何故、世界は突然色を取り戻したのか?
何故彼の願いは叶ったのか?
平和島静雄は、あの時一度死んだのだ。
存在(ある)べき場所を間違えて迷い込んだ
可哀想な灰かぶり姫。
落としたガラスの靴を届けてくれる者のいない世界で
願いを叶えたのは、偽りの愛を囀る言葉多い王子様。
【住む世界が違うならば、こちらへ堕ちてくればいい。
俺は受け止めやしないけど、君が望むなら
それはいつだって可能さ。】
愛を月に誓うでもなく、ましてや自身に誓うなど
するはずのない偽りの王子様。
可哀想な灰かぶり姫。
一人ぼっちの壊れた心は、甘言に気付かずに堕ちていく。
ガラスの靴を捨てて、全身から叫びをあげて。
いつまでもいつまでも、追いかける。
選んだのは、自分。
粉々に砕けたのはガラスの靴。
ガラスの破片は心に刺さり、血を流し続ける。
それでも彼は気付かない。
この真っ赤な世界に魅せられた、可哀想なお姫様。
捕まえることの出来ないその背中を追いかけて、
今日も真っ赤な世界を駆け抜ける。
連れ出して。連れ出して。
いつだってそう、願っていた。
願いは叶った?
その世界の赤を、自分で作っていると知らずに
空っぽの心を満たしていく。
その心に、穴が開いていることに、気付かぬまま。
END
作品名:シンデレラは二度死ぬ 作家名:ame