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【小話】茶柱【近未来】

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俺と自分の湯のみに茶を注いだKAITOがとんでもない悲鳴を上げやがったもんだから、うっかり保存前のファイルをそのまま閉じてしまった。
この野郎と思いながらKAITOをにらみつけても、奴は俺の視線をものともせずに湯のみを突きつけた。

「マスター、見てください。茶柱が立ったんですよ。」

てめえ、そんなもんのために俺の5時間の苦労を灰にしてくれたのか。

「お前なあ、いきなり大声出すなよ。」
「あれ?マスター嬉しくないんですか??茶柱が立つといい事があるってミクが教えてくれたんですよ。」
「そんなん迷信だろ。それよりも、」
俺の五時間返せ!という台詞はKAITOの憐れみに満ちた視線に遮られた。

「マスターにいい事が起きるように沈まない内に持ってきたんですけど茶柱、嬉しくないんですね。ああ、マスターは茶柱の分の幸せの種を持ってないんですね。」
「幸せの・・・種?」
ちょっと待てお前、なに一人で納得してるんだ。だいたい茶柱と種と何の関係があるんだ。

「ミクが教えてくれたんですよ。心には『幸せの種』がいっぱい詰まっていてそれが芽吹く度に幸せを感じるんだそうですよ。
それでですね、すごいのは『幸せの種』ってのはいくらでも増やすことができるそうなんです!
マスター安心してくださいね。俺の分の『茶柱の幸せの種』をわけてあげます。」

さあさあとKAITOは俺に茶柱入りの湯飲みを握らせる。
「マスター、一緒にお茶を飲みましょう。」

とりあえず茶を口に含むとKAITOがにっこり笑いかけてきた。
「マスター、お茶がおいしいですね。」
「ああ、うん。」
「マスタぁ、にっこりして『おいしいね』って返事しなくちゃ駄目です。」

KAITOが真剣な顔をするもんだから、つい言う事を聞いてしまった。

「ああ、うまいお茶だな。」

俺が笑うとKAITOも笑う。
「今、俺は『茶柱だ、嬉しいなあ』と思いながらマスターと一緒にお茶を味わって一緒に笑いました。これで俺の『茶柱の分の幸せの種』がマスターにも移りましたよ。良かったですね。次からは茶柱を見て幸せになりますよ。」

お前はおまじない好きの女子高生か、と突っ込みを入れてやりたいがKAITOが幸せそうなので我慢する。
茶柱の効果じゃないが、隣にいる奴が幸せなら俺もなんとなく嬉しくなるから。

「ところでKAITO。俺が作業しているのにいきなり大声をあげるんじゃない。」
ちゃんと注意だけして、俺はパソコンに向かい直した。