試着室で二人きり
どうしたら今この場を抜け出せるのだろうか、雲雀は考えていた。たいして興味もないのに、六道骸の買い物に付き合わされているのだ。
骸はニコニコと服を物色しては試着し、雲雀に感想を求めるのだが、雲雀にとってそれはあまりにどうでもいいことなので、自然と「いいんじゃない」「それにしたら」等という適当な返事になってしまう。
「もう! 君もお洒落に興味を持ったらいかがですか! 女の子でしょうっ」
「そんなこと言われても興味な……わっ!」
「はいはいこれ試着しましょうねー」
無理矢理試着室に入れられ、雲雀は思わず声を上げた。そこに骸からある物を渡され、茫然とする。
「ちょっと骸……何これ」
「見て判りませんか? 水着です」
そんなことは判ってるよ! と雲雀は突っ込みを入れた。
骸に手渡されたのは、薄いピンクのフリルが可愛らしいビキニ型の水着。これを着るなんてとても恥ずかしい、と雲雀は思うのだが、着るまで骸は試着室から出してはくれないだろう。
「何で僕が……」
買い物に誘われた時、無理にでも断ればよかった、と雲雀は後悔した。一応断りはしたのだが、骸があんまりにも寂しそうな表情を浮かべたので、雲雀も仕方なく承諾してしまったのだ。
暫く水着を見つめて考える。これを着ずに回避することは無理だろうか。
「恭弥? まだですか?」
「ちょ、ちょっと待ってよ……」
「着方が判らないなら着させて差し上げますよ?」
「い、要らな……って君、何入ってきてるのさ!」
気づけば狭い試着室に二人。骸は楽しそうに笑みを溢した。
「だって遅いんですもん」
「君がこんなものを渡すからいけないんだろ!」
雲雀は勢いよく骸に、持っていた水着を突き付ける。骸はそれを受け取って暫し考え、「仕方ない、僕が試着したら君もするんですよ? それなら恥ずかしくないでしょう?」と言っていきなり脱ぎ始めた。
「ちょ、君、僕出るから……!」
骸の行動に慌てて試着室を出ようとする雲雀だが、骸はそれを遮ってしまう。
「女同士ですし……君と僕の仲では、こんなの今更でしょう?」
確かに骸と雲雀は、女同士でありながら付き合ってもいる。当然愛を確かめ合う時間もあるわけで、お互いの姿を見慣れてはいるのだけれど、今は出先であり、人の多いデパートの中。話が違う、と雲雀は思う。
「待、骸……!」
「待ちませんよ?」
骸の豊満な胸をしっかりと包むブラが姿を現し、雲雀は顔を赤く染め、ギュッと瞼を閉じた。そんな初々しい反応に、骸は笑顔を浮かべる。
(あぁ、本当に可愛いんですから、僕の雲雀君!)
骸は、雲雀の様子に満足し、これ以上からかっては可哀想だと脱いだ服をまた着直した。終わってから、骸は雲雀に声をかける。
雲雀の胸は、まだドキドキしていた。
試着室で二人きり
(本当に可愛いんですから雲雀君!)
(このお返しは何処かで絶対にするからね骸!)
fin.