距離、
そういうと一瞬変な顔を臨也さんはして、懐から取り出したiPhoneをこちらに向けた。
『すきです、臨也さん』
僕の声と思しきものがスピーカーからこぼれてきた。
よくわからないという顔をすれば、めんどくさそうに舌打ちをして、
「だから、俺はちゃんと君のこと愛してるから、君はちゃんと俺を愛するべきなの!」
臨也さんの愛は、軽いものだと思っていた。
誰かれ構わず、彼は愛の言葉を人へと贈る。
それは本心からくるものであって、悪気はない、そして純粋であるからこそ性質が悪い。
向けられた愛に人は答えようとする。人は拒否しようとする。
でも彼はそれを望んでいない。愛して欲しいだけなのだ。
同じように愛を囁き返してくれる人をこよなく愛したい。
……結構面倒くさいと思う。
でも、僕は愛が分からない。
好きだなぁとか、かわいいなぁとか、面白いなぁ、とか。
とかく日常に埋没しないものが何でも好きだった。
だからこその昨日の発言だったのだが。
どうやら妙に気に入られたらしく、彼は思い切り僕を抱きしめながら(あつくるしい)
「全力で君に愛を向けるから!だから俺を愛してよ!」
とこの年にして初めて告白をされた。(しかも男性)
くるくるめまぐるしい動き。
ねこのじゃれているのとか、犬のしっぽとか、蝶々の飛空とか、あれに似た感じで臨也さんの動きは面白い。
世の中のカテゴリ的には「うざい」やら「めざわり」とかにわけられるんだろうけど、この人は顔がいいから。
個人的にはなんでそんなに台無しにしてしまうんだろうと思う。
「体つきのほうだったら静雄さんのほうが好きですよ」
普段は本当、雄々しくなくて。
どちらかというと生白い、ひ弱な印象を受けるのに、とたんに変貌する体、目つき、身のこなし、怪力。
特に臨也さんを見つけたときなんか、一番ギャップがあってわくわくする。
だからこの二人が戦闘態勢に入るのを見るのが楽しい。
静雄さんはより、静雄さんらしく。
臨也さんはより、臨也さんらしく。
僕にはないものを持っていて、それがすごくすごく面白い。
(羨ましいとか、そうなりたいとかは全く思わないけれども)
ナイフを首に押し当てられたまま(ちりちりするから多分血が出ている?)
今ここにはいない静雄さんのことを思っていると、臨也さんは非常に機嫌を損ねたようで
「今君の目の前には俺がいるってのにずいぶんひどいよねぇ」
「臨也さんのそういうところ、すきですよ。(……僕を愉しませてくれる限りは)」
後半は声に出さなかったのだけど、察したらしく怒ったような喜んだような複雑な顔をして、
(痛い)
首の傷口をつかんで押し倒された。