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もういいかい、

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かくれんぼのルールは知っているか。決められた数を数えて、隠れてる相手を探しに行く。フィールドは家だったり公園だったり学校だったりするけれど、今回の場合はご町内ってところか。電車がないだけマシだった。お前ときたら財布も携帯も鞄ごと置いて行くんだものな。
 公園のベンチで縮こまる小さくはない体を見下ろす。俺の役はここまでだ。だから隣に腰掛けてポケットに入れていた缶珈琲を取り出した。
 夜の公園は他に人もいない。電灯の掠れた音がたまにする。お互いに言葉もなく、定期的にジジジ、と頭上から響くだけの時間を、少なくとも190gを飲み下す程度の間過ごした。

「…………連絡、しないの」
「ガキじゃねえんだ、自分でしろ。少なくとも今誰かの顔が浮かんだなら、そいつはお前から来るのを待ってるんだろ」

 人間、長く言葉を発していないと喉が出し方を忘れるものだ。こいつのこんな掠れた声は寝起き位しかきいたことがなかった。

「………………、……心配、してた?」

 少し出し方を思い出して、だからこそその震えが解る不安定な声で、ぽつりと。顔はあがらない。きっと人にみせられるそれを、していないのだろう。

「逃げるなら、徹底的に逃げろ。捨てるなら振り向くな。…気にする位なら最初からすんじゃねえよ。後まで引きずるのは、どうせ一番苦しむのはお前なんだ」

 小さく、電灯にも負ける声で小さく、何度もうんと呟く。逃げ方も捨て方も知らない、他人を駒と思えない、きっとこの馬鹿はそうして内に貯め続けるのだろう。これから先もずっと。俺とは圧倒的に違うそれを、疎ましくも羨ましくも思う。
(けれどだから、お前のそれを護るのは俺の役目だ)

「何も捨てられないお前の負けだ、明久。せいぜい叱られて殴られて、どんだけ愛されてるか実感するんだな」

 お前が言うと気持ち悪い、と少しの間を置いて弱い声が聞こえた。
 きっともう少ししたら、こいつは自らの足で日常という戦場へ戻るのだ。
 だから俺は手を引いたりしない。もう少しだけ、こいつの弱さを見ない振りをすればいい。

(俺の手は、本当にどうしようもなく砕けたお前の為にある)
作品名:もういいかい、 作家名:コウジ