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ただ僕は

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きみに何の権利があって、とか、今までならば言えただろう。
 このたった5分程度の会話で、すっかりそれも出来なくなった。
「何も言わないのは、肯定か? 単純に言葉がないだけか」
 恐らくそのどちらもだ。彼を負かす言葉が見つからない。これを絶句というのか、と遠い所でぼんやりと思う。彼は僕を壁においやった体制のまま動く気配は無く(背は低い方ではないので他人の影に囲まれるなど珍しい事だった)、けれどその気になれば空いている左側から僕が抜け出せるようにもしている。これを卑怯と言うのだろう。僕が抵抗していないと、僕自身にしらしめるその手管。あの子はこんな人間を相手によく毎日堪えているものだ。或いはあの子だから、か。
 恐らく酷くひどい顔をしてひたすら黙っていると、彼は野性の滲み出る憎たらしい笑みを片頬に刻んでゆっくりと顔を近付けてくる。耳元、戸惑う僕に、そんな顔してもそそるだけだ、と意味のわからない事を囁いて。びくりと肩を浮かせたのをいとわずに更に近付いてくるから、僕は慌てて坂本君、と声を張り上げた。突然の事すぎてやめろと付け足せなかったが、声から感情を読み取ったのか、唇が触れる数センチ手前で止まった後に俯いてくつくつと笑いはじめた。からかわれていたのだ。青くなった顔のままきろりと睨めば、顔をあげた彼は空いている腕を目の前に翳してその鳥肌、を見せてきた。
「助かった。止められなかったらどうしようかと思ったぜ。俺はゲイじゃないからな」
 なんて皮肉。僕とて同性とそんなことをする趣味はない。体を張って嫌がらせをする彼の思考は解らないが、それだけ、意味はあった気がした。
 ひらりと身を起こして、まあ冗談だ、俺のはな、と強調してくる彼が本当に憎らしい。
(これがあの子なら、僕は)

「俺はあいつの保護者じゃねえからな。手を出すななんて言わねえさ。嫌がるあいつの反応も面白そうだしな……まあ、お前の名前も知らないだろうあいつにこうする勇気があればの話だが」
「……君は、誤解をしている。僕は彼にこんな事をしたくて見ていた訳じゃあないよ」
 するつもりはない、とは言えなかった。たった今あの子ならばと考えてしまった口で。彼もそれに気付いたのだろう、しかしそれ以上の言及はせずにまたひらりと踵を返して、あの子が待つ日常へ続く廊下を戻り始めた。奥ゆかしい事だ、そう言い残して。

 10分程前ならば、君には関係ないだろうと言えた。(ないものか、僕だって大切な友人ならあんな想いはさせたくない)
 彼が僕にしたことは、全て言葉だ。牽制であり警告であり、助言だった。
 可能性の掲示。ほぼ高い確率の、失敗。
 僕が彼に抱いた嫌悪と同じ想いを、彼に抱かれるかもしれないということ。
そして、僕がそうしたがっていると、思われているということ。
(それは、辛いな)
 したくない訳じゃない。話していいなら。触れていいなら。僕だってどれだけ、けれど。
(少なくとも今、ただ僕は、傍にいたいだけだよ。よしいくん。)

信じては、くれないだろうか。
それだけで僕がどれほどの幸福を知れるかを。



(まずは僕という存在をいつか、覚えてもらうことから始めようか)



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最終的に一周回って前向きなのが久保君
作品名:ただ僕は 作家名:コウジ