白昼
エドワードのせりふは時々ひどく唐突なのだけれど、これはロイが相手のときだけのことかもしれない。机に腰だけ中途半端にかけて足をぶらぶらさせる仕草だとか、視線をこちらに寄越さないままぼそぼそと言う気のない喋り方とか、すくなくとも彼の弟を、そんなふうにわかりやすく邪険にする姿は見たことがない。
彼の金色の目が伏せられて、同じ色の髪が額にかかっている。机の上にひろげられた書類。東部の一地方で暴動。
――最近、多いね。
――ああ、仕事が増えて困る。
――東部が物騒なのはいつものことだけどさ。
――そうだな。
エドはさっきから一度も目をあげようとしない。赤いコートの裾が机の角にひっかかりそうになりながら、あぶなげにするりと落ちた。
マスタング大佐は執務中の机の上にペンを落とす。午後の仕事は、溜まりに溜まっている。
「私が、君の相手をしないことが?」
「俺、大佐に会いに来たわけじゃないよ」
「知ってる」
「大佐に用があるわけでもないし、顔をみたかったわけでもないし」
「それも知ってる」
「俺の相手する理由ないじゃん、だから」
「ああ。でも」
ロイの目は机にのせられたエドの指を見ている。珍しく手袋をはずした生身の手。小柄な体にみあって細い。とんとん、と時折なにげなく机をたたく。
「鋼の」
ロイは、目をあげてエドワードを見る。
金色の目が、瞬きもせずにこちらを見つめている。年少の錬金術師は、いつもわかりにくいやり方で、こちらと向かいあいたがる。
彼の、たぶん意地だ。泣きたいのでもない、かなしいのでもない、ただほんの一瞬、午後の白いひかりが破裂する瞬間を、狙ったようにここに来る。
指が書類をめくる。その一瞬の手つきと、俯いた頬に落ちる、うっすらとした睫毛の影とか、体をずらした瞬間聞こえた吐息とか、そんなものが心臓に焼きついたりしないと思い込むために、自分たちはずっと必死だ。真摯であると言いかえてもいいくらい。
だから、どちらの手がどんな温度で相手に触れても、知らないふりをする。午後のほんとうに静かな一瞬の中に、それを置き忘れてきたことにするのなら、憶えていなくても構わない。
「それでいいんだよ」
エドワードが、もう一度呟いた。
眩しすぎる光の中で、視界は白濁する。目を閉じれば、闇すらも明るい。
ロイは一瞬だけ目を開いて、エドを見た。
金色の睫毛の奥に、光の色の目が見え隠れしている。はっきりとは触れない。だから見ない。