rainy day / 続編
静まり返った室内の向こうで、浴室を使用する水音がする。
最初はシャワーをすることを嫌がった臨也だったが、門田が叱りながら宥めるとしぶしぶ浴室へと向かっていった。いつも彼は大抵自分の説教に折れる。
聞き分けのよい分、逆に頼ったり甘えられたりすることは日常茶飯事だ。門田と臨也の関係は友人ではない何かで成り 立っている。切り離せないその関係は一体何なのだろう。時折ジレンマを抱くこともあるのは、臨也には秘密だった。
「ドタチン、ドタチン」
「その名前で呼ぶのを止めろって言ってるだろうが」
臨也はタオルを頭に被せたまま、浴室から出てきた。
部屋のハンガーには濡れた上着とシャツが掛けられており、彼の服は全てそこにある。
着替えを用意せざるを得ない。
門田が臨也に貸したTシャツは一回り大きく、当然肩幅は合っていない。ハーフパンツから伸びるすらりとした長い脚。
普段は見られない肌の露出に胸の鼓動が加速する。臨也に悟られないように注意を払うので精一杯だった。
「シャワーありがと。あと着替えも」
「やっぱり俺のサイズじゃ合わないな」
「ふふ……しょうがないよ。ドタチンの方が大きいんだもん」
静雄に追われている時は身体中の感覚を鋭敏にしているのに、どうして自分の前では無防備なのだろう。
見せる姿のギャップに眩暈がして、門田は深く溜息をついた。
「ほら、タオル貸せ」
無骨な指が髪を乾かす。
他人に髪を拭かれる感触が心地いいのかお喋りな唇は黙る。臨也は身を任せたまま、瞳を閉じた。
こちらの表情が見えないまま、彼は他の男のことを思い出す。
「今日はね、何で出会えなかったんだろうね。俺が池袋に来ると絶対シズちゃんに見つかるのに。今日はだめだった」
「ああ」
「いつも変なところで追いかけてくるくせに、暇な時には姿見せないの。自分勝手だと思わない?」
「そうだな」
曖昧な返事しか返せない。
口を開けば静雄のことばっかり喋る臨也の方が、自分勝手なのではないか。そんな醜い嫉妬心を抱いている己を情けないと門田は思った。喧嘩以外での距離では自分の方が近いはずなのに、どうして彼の心には届かないのだろう。
いつだって手を差し伸べるのは自分なのに。
「聞いてる?ドタチン」
赤い瞳が振り返る。
不満そうに唇を尖らせる臨也の頭を、門田は撫でた。
「終わったぞ」
ただ彼が望む温もりを与えることしかできない。
臨也の関心は常に静雄に向いている。ずっと前から負けることを分かっていたはずなのに嫉妬を止められない。そう、こちらに関心が向けられることを期待してはいけない。
――期待してはいけないのだ。
「ドタチンは優しいね」
「……そうか?」
「うん。傍にいてすごく安心する」
ぎゅ、と臨也が腕に抱きつく。雨で体を冷やしたのは自分のほうかもしれない。一瞬瞳を丸くしながらも、門田はその温もりを欲していた。
臨也が静雄を追いかけるように、門田は臨也を追いかける。追いかけ続ける。
抱きついてきた愛おしい体を、大切に、壊さないように優しく抱き寄せた。
作品名:rainy day / 続編 作家名:如月蒼里